久留米大学医学部産婦人科学講座 主任教授 牛嶋 公生
■資格: 日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科腫瘍専門医、日本がん治療認定医 ■所属学会: 日本産科婦人科学会、日本婦人科腫瘍学会、日本癌治療学会、日本癌学会、日本臨床細胞学会、日本産婦人科手術学会、日本新生児学会、日本医学教育学会、国際外科学会、国際婦人科腫瘍学会、米国臨床腫瘍学会、アジア婦人科腫瘍学会、日本婦人科病理学会
■専門領域: 産婦人科学、婦人科腫瘍学
―どんな教室ですか。
大学の創設時からある教室ですから、先輩方が作られた伝統を継承しつつ未来を構築するという姿勢で臨むつもりです。
いろんな個性が集まりますから、それを生かしながら一つにまとまるように気を配っています。彼らの気持ちをよく聞き、思いきり力を発揮できる環境を整えたいですね。そして、私は久留米大学の産婦人科出身ですと胸を張って言える場所であればと思います。
―求められる医師像は。
1人で出来ることは限られています。メディカルスタッフも含めて一緒にやっていかなければ、良い医療の提供はできません。すごく手術の上手な先生がおられたとしても1人ではやれないし、技術が伝承していかなければ廃れてしまいます。だから、全体として仕事ができるかどうかが重要だと思います。
―産婦人科の現状について。
最近の女性は初婚年齢が高く、初産の平均年齢は30歳を超えています。晩婚化と初産年齢の高齢化で出産数が減っているのが少子化の理由です。
少子化で産婦人科は仕事が暇になるのではと言われることがありますが、出産年齢が高くなることで病気を合併した妊婦さんが増えてきました。内科的な疾患、循環器だったり、膠原病であったり、多いのは妊娠糖尿病です。
婦人科疾患の子宮筋腫でも、30代では筋腫を持っている方はたくさんおられ、それが妊娠のじゃまになります。また子宮頸がんやその前がん病変を合併している妊婦さんもいます。こんな時は二次施設で診なければいけません。危機的な母体出血や母体死亡などもあり得るわけですから、状況によっては救命救急センターとも連携しながら対応することもあります。
このようなハイリスク妊婦さんが昔より増えて、全員が貴重児となり、たくさんの医療資源を注入しなければ救えない。だから分娩数が増えていなくても大変さは増しています。
婦人科疾患では、若い女性の婦人科がん、特に子宮頸がんが著しく増えています。治療により妊娠する能力を失ったり、若くして命を落とす方もいます。ワクチンによる予防と、検診による早期発見が重要です。また妊娠の機能を残す治療も開発されてきています。
周産期の現場というのは産婦人科全体から見れば一部です。昔は産科と癌しかないという概念でしたが、生殖医療や内分泌、今は出産年齢以降のほうが長いので、女性のヘルスケアなど4つの分野(産科、婦人科、生殖医療、女性医学)になっています。そのどれに進むかは、専門医を取ったあと選択していくので、産婦人科を、いつ分娩が起こるか分からないという面だけクローズアップして見るのではなく、やることはたくさんあることを知ってもらいたいと思います。
―産婦人科は大変だろうという印象があります。
産科をやっている人は別につらいわけではないんです(笑)。本人たちはそこに面白みを見つけ、喜びを感じているわけですから。
昔は医療と関わりがなかった出産が、ある時から内科的な医療が介在し、そこから帝王切開をするというように、外科的治療にぱっと変わるところに面白みがあります。
内科的なことも外科的なことも両方をやれ、分野もどんどん広がってきました。そこが産婦人科の魅力です。
これからは胎児治療が注目されると思います。超音波でかなり早期に、赤ちゃんの異常を見つけられるようになってきているので、胎児不整脈とか、胎児の甲状腺疾患だとか、疾患によっては母体に薬を投与して、体内にいる間に治療できるようになってきます。
大きな心疾患は、出産してすぐ手術が出来るように準備を整えて、小児外科や小児心臓の先生に治療していただくというような、10年前にはできなかったこともやれるようになってきました。
最初に胎児の異常を見つけるのは地域の先生方です。診断はつけられなくても、何かおかしいぞと気づいていただくためには、生涯研修も必要だと思います。
―紙面を通じて訴えたいことは。
地域医療に貢献するため、教室から10か所の関連基幹病院に、大学よりも多い38人を出しています。また、久留米大学は診療所からの紹介率が非常に高い病院ですが、これも信頼の証だと思います。
今、全国の新しい産婦人科医の7割は女性です。やる気に燃えた女性がどんどん入ってきてくれる反面、結婚されて出産されると、第一線になかなか戻ってこられません。まだ不十分なところはありますが、復帰支援プログラムを作って、休職中の女性医師を対象にセミナーをやり始めたところです。女性が帰って来ないと、残った男性医師が疲弊してしまいますので、そこは何とかしたいです。