患者の思い 夫の思い 親の思い 医師の思い

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独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO) 久留米総合病院 院長 田中 眞紀

1980 久留米大学医学部卒 第一外科入局 1990 社会保険久留米第一病院外科健診部長 2006 久留米大学医学科外科学講座准教授 2011 同客員教授 2012~社会保険久留米第一病院(現久留米総合病院)病院長。■日本乳癌学会乳腺専門医 日本外科学会専門医・指導医 日本消化器外科認定医 麻酔科標榜医 日本乳癌検診学会理事・検診マンモグラフィ読影医 日本乳癌学会評議員 日本臨床腫瘍学会暫定指導医

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左から、大塚弘子乳腺外科医長、田中眞紀院長、山口美樹乳腺外科部長、朔周子乳腺外科医師。撮影=岡久理恵(総務企画課広報)

女性の医師だから見えるものがある

 自分が女性医師であることは、乳房の病気で病院に来る患者さんにとって言いづらいことを話しやすいと思います。女性同士であることを意識しながら診察室で話をします。

 親に頼っていた若いころから、親になった今まで、その時その時で思いは違ってくるのですが、やはり思いが至るのは患者さんと家族の関係です。

 患者さんが亡くなる時、その方がおばあちゃんなのか、小さなお子さんを育てているお母さんなのか、それとも独身なのかで思いはそれぞれ違いますが、ある若い患者さんが亡くなった時に、残された夫が妻の家族に何も話していなかったことがありました。

 それは患者さん自身の意思で、自分の親には言わないでほしいと強く頼まれてのことです。

 私自身病気になったことがありますが、誰に一番言いにくかったかというと、それは親なんですね。夫にはすぐに言えるんですよ。最後が親です。

 年取った親が心配する気持ちがよく分かるので、言えないんです。親がどれだけ嘆くか、そしてその嘆いている姿を見るのがつらく、耐えられないのではと。

 それまで乳がんを親と一緒に闘ってきた人でも、転移や再発をしたら何も言えなくなることもあるんです。

女性の医師だから言えることがある

 病状を夫以外の家族に知らせていなかった患者さんがいよいよ悪くなった時、私は夫に対して、両親にきちんと話して協力を得、一人で抱え込まないようにした方がいいですよと助言するんです。最悪なのは、こんなことになるまでなぜ教えてくれなかったのかと、家族が夫を責め立てることです。いくら患者さん本人から、親には絶対に言ってほしくないと頼まれても、亡くなってしまってからつらい思いをするのは、残された夫なんです。そのような人を何人も見てきました。

 亡くなったその場で夫が非難を受けたりすることもありました。いよいよ終末期に入る場合には、本人がどんなに知らせたくないと言っても、実の親兄弟には実情を話して伝えたほうがいいですよと話します。

 それでも親や兄弟にしてみたら突然のことで驚きますよ。どうしてこっそりとでも、もっと早く教えてくれなかったのかと責める気持ちも分かります。血のつながりがあるからこそかもしれません。

 知らされなかった家族は、手を差し伸べられなかったことに悔いが残ります。もっと話をしたかったし、会いに行けば笑顔を見せてくれたかもしれません。

 特に若い夫婦の時には気を配って、病状が悪いことを親に話すことをすすめますが、もし話せない時は実の兄弟には話して、家族みんなで考えましょうと。そのような家族のサポートも、終末期の患者さんには大事だと思っています。

 途中から私も家族みたいな気持ちになっているのかもしれませんが、元気な親が娘を看取る時の対応には、高齢者が亡くなる時とは別の対応が必要です。

 家庭で母親の機嫌が悪かったり、暗い顔をしたりしていると、家族は本当に気を使いますよね。家の中では父親よりも母親が元気なほうがいいんですよ。それはみんな小さいころ経験があると思います。

 そう考えると、家族の中で母親の役割はすごく大きいです。

 だから病気になった時に、子育てに忙しいとか、子供が受験だから治療をする暇がないという気持ちも分かりますが、母親が元気じゃなければ子供はもっと元気がなくなります。家族の願いは病気が早く治ってほしいことなので、治療を積極的に受けましょうと患者さんには言います。治療に専念できない理由を言う前に治療を進めましょうと。

 そして子供には隠し事をしないこと。

 大人には大したことではなくても、子供にとっては親がすべてですから、親が何か自分に隠しているんじゃないかと思い始めたら、親との信頼関係が崩れることがあります。

 一人前に扱ってもらえなくて何も話してもらえないのはつらいし、中高生くらいになったら病気のことはしっかり説明して、それも笑顔で、お母さんは頑張るから、あなたたちも支えてねと、そんな姿を見せることが大切ですよと、そのような話もします。

 残された家族はいつまでも、もっと何かしてあげられなかったのかと自責の念が残ります。そこで家族をねぎらって「皆さんが精一杯頑張られましたから、安心して亡くなられたと思います」と、第三者の言葉を添えるようにしています。

 私が若い時はその言葉はかけられませんでした。

でも今はさまざまな経験を経て、自然と声をかけられるようになりました。亡くなる時がその人の人生で一番大切な場面ですので、寄り添ってあげたいと思います。

患者会に入ってストレス解消を

 診察室にいる時は患者と医者です。ですが病院の外で会った時にはそうではありません。心の許せる何でも話せる友人のような感じでしょうか。付き合いが長いですから、診察室でも昔の話に花が咲いたりもしますね。

 患者会の顧問医という立場でいても、食事会では世間話など普通の会話ばかりです。

 あけぼの会(=あけぼの福岡)など同じ病気で知り合った患者さん同士が食事会や勉強会などを開催するボランティアの会ですが、みんなで和気あいあいと楽しむ場であり、私にとっても仲間のようなものです。女性のストレス解消のひとつは友達とご飯を食べて楽しくしゃべることなので、たぶんそのような場ではないかと思います。だから続くんですよ。何でも話せる仲間ですからね。

 患者会に入らなくても、自分のまわりに楽しくおしゃべりのできる仲間がいればいいんです。以前、当院で患者会に対するアンケートを取ったら、患者会に入りたい人は半分くらいでした。乳がんの知識は主治医から聞き、治療をしっかり理解して進めていけばそれでいいですし、今のままがいい人もいるでしょう。

元気になるために治療しましょう

 乳がんは早期発見すれば、多くの人が平均寿命を全うします。そのためには早く見つけて、早く治療して、普通の生活を早く取り戻してほしい。治療はその人を病気にするためにあるわけではなく、病気をコントロールして社会復帰して、後の人生を楽しむためにあるのです。そのためにはつらい治療も一時期は必要になるかもしれませんが、それは、未来の自分に大事な時間を作るため、また、元気に過ごすために治療をしましょう。


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