地方独立行政法人広島市立病院機構 広島市立広島市民病院 病院長 荒木 康之
公益財団法人日本対がん協会(垣添忠生会長=東京都千代田区)は昭和35年以来、毎年9月を「がん征圧月間」と定めている。今号ではがん征圧特集として、広島市立広島市民病院の荒木病院長、愛媛大学産婦人科学の那波教授、徳島県立三好病院の住友院長の3氏に、それぞれがん診療に関する取り組みを取材した。
― がん治療の病院という印象があります。
救急医療や周産期に力を入れていますが、がん治療の症例数も多い病院です。
397施設を対象に2011年の患者数を調査した「がん診療連携拠点病院等院内がん登録全国集計」によると、全国で26位の症例件数でした。臓器別にみると、胃癌では全国7位、肺癌が19位、乳癌が10位です。肝癌は34位、大腸癌は56位と多くはありませんが、中四国では少なくないほうだと思います。
胃癌の症例が全国的に多いということもあり、外科の二宮基樹副院長が来年3月、第87回日本胃癌学会総会の会長を務めます。会場は病院の前のリーガロイヤルホテル広島(広島市中区)が中心で、病院から人的な応援はしやすいですね。
― 肺癌も歴史がありますね。
定年された呼吸器外科の妹尾紀具先生が熱心に取り組まれていたので、症例が集まり、医師が育ちました。今は妹尾先生から受け継いだ医師が、次の医師を育てています。一人の医師の努力で症例数が集まるというのはよくあることですが、その一人が抜けた途端にその分野が衰退するようなことがあってはいけないと思います。呼吸器の先生たちは伝統をよく守り、発展させているなと考えています。
― ダ・ヴィンチSも入っています。
導入して1年半ほど経ちました。県内にダ・ヴィンチの導入病院がほとんどないこともあり、前立腺癌の手術が非常に増えています。今年、手術ライセンス取得のための症例見学施設に認定されました。雑賀隆史主任部長を中心に、泌尿器科もがん治療において先進的な取り組みをやっていると思います。また婦人科も、ダ・ヴィンチを使った手術を始めています。今両科に来たいという医師が増えており、導入して良かったようです。現在は当院の売りの1つになっています。
入ったのは私の代になってからですが、ハンコを押したのは前病院長です。結果を見れば正解でしたが、高額な機械ですから英断だったと思います。市議会の反対がまったくなかったのは、これまでの医療が良質だったから信用があったのでしょう。
― 一時は県内の乳癌患者が殺到したとも聞きます。
乳腺外科の檜垣健二副院長を中心に症例が集まっています。当院のがん治療の中では歴史があり、本格的な院外連携の始まりは乳癌治療がきっかけでした。評判が良く、患者さんが集中して、検査などまで手が回らなくなった時期があったのです。検診をする病院、精密検査を担当する病院、術後のフォローをお願いする病院など、広島県内で役割分担をしてもらって、以後お互いに協力し合う関係が強くなりました。
今は他のがんにまで広げ、協力していただいています。当院の症例数が多いのも、市内・県内に協力して下さる医療機関が多くあるからです。本当にありがたいことだと考えています。
― 連携がうまくいっているようです。
院長になって2年経ちましたが、近隣医療機関との協力体制の強化は特に重視しており、区ごとに開業医さんとの交流会を開催しました。また市内の連携病院とも毎年交流会を開いています。
県内全域から紹介がありますし、またバスセンターが病院の前にあるので、島根からも多く紹介があります。日本海側に行くよりも、広島市内の方が便利な地域があるんですよ。
交通の便の問題で、県外からの紹介がしやすい病院でもあると思います。
― 紹介する時に気を付けることは。
悩まれる症例や、難しい症例の場合は気軽に紹介していただいてけっこうです。画像も含めて、ちゃんと患者さんの情報をいただけるなら、特に問題はありません。
日本全国から紹介していただいて大丈夫です。お子さんが広島県内で働かれている方を遠方から紹介されることも珍しくありません。当院の医師と面識がなくても、受け入れます。
まずは当院の地域医療連携室にご連絡ください。
― 院内連携はがん治療にも必要でしょうか。
患者さんのために最適な治療をするなら、連携は必要でしょう。医師は患者さんにとって一番良い方法で治すことを心掛けるべきです。当院は救急医療に力を入れだしたことで、各科の垣根が低くなりました。そのことががん治療にも影響しています。
外科に紹介された患者さんでも、内科的な治療のほうが良い場合もありますし、逆もあります。現在は地域連携が上手くいっているので早期の方も多く、胃癌であればESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)で大丈夫というケースは多くあります。当院に胃癌の患者数が多いのは、消化管を診る内視鏡グループの頑張りも大きいのです。
胃癌だけでなく、外科と内科が頻繁にカンファレンスをして、どちらで治療するのが良いのか検討をしています。がんについては治療法が1つではないので、各科の連携が特に大切だと考えています。
また当院は岡山大学と広島大学の関連病院ですが、学閥というのがまったくありません。私自身が内科主任部長だった時は、出身大学にかかわらず、頑張っている人は等しく可愛らしく感じていました。複雑なんじゃないかと思う方もありますが、一緒に働けば協力するのはあたりまえですよね。若い人にとっては、当院での交流が今後役に立つこともあるでしょう。だから、両大学から当院に働きに来ていただくのは、歓迎しています。ありがたい話です。
周囲の医療機関は広島大学出身の先生がほとんどですから、当院のそういう気風が、地域連携が良好な理由の一つでもあると思います。
建物は今年4月、一般社団法人公共建築協会 (春田浩司会長=東京都中央区)が主催する第14回公共建築賞において優秀賞を受賞した。協会の発表によると、全国から88点の応募があり、優秀賞は30点。現在は優秀賞作品を対象にした2次審査の最中であるという。
― 手術以外の治療も多いのでしょうか。
放射線治療の数も当院は多いのが特徴です。患者さんに合わせた治療を心掛けると、どうしても手術以外の部分も増えてきます。乳癌や肺癌の患者さんが多いので、必然と放射線治療は増えてきました。
また当院には化学療法を専門とする、腫瘍内科があります。まだ腫瘍内科の医師が多くはないので、全部の抗がん剤治療を担当するわけではありませんが、今後増やしていきたいと思います。岩本康男主任部長はもともと肺癌を診ていた先生です。今は肺癌のほか、乳癌や胃癌など少しずつシフトが進んでいます。これから人員を増やしたい部門ですが、今は臓器別で考えることが一般的で、腫瘍内科を専門とする人は全国的に少なく、なかなか難しいですね。専門の先生に来ていただくというよりも、若い人を育てるほうが良いかなと考えています。
― 若い人にとっての広島市民病院の魅力は何ですか。
症例数が多いということは、優秀な医師・医療スタッフがいるということです。コ・メディカルもがん治療に習熟している人が多く、医師として良い環境です。設備も申し分ありません。単にたくさん診られるということではないのです。最先端のこと、最新のことができるから、岡山から広島まで来たがる人が多いのだと思います。近いので広島からたくさん来て欲しいですが、県外の岡山から見ても魅力的であることが必要だろうと考えています。
診療情報管理室が頑張って、院内の膨大ながん治療のデータをまとめてくれます。医師にとってはそういう数字を見ることもやる気につながりますから、感謝しています。当院のがん治療に大きく貢献している部門で、事務的なサポートがあることも魅力の一つにあげたいと思います。
― 院長も癌が専門ですね。
今は院長になって離れましたが、ずっと肝癌を専門にしていました。岡山大学第一内科の出身です。3年ほど四国がんセンター(松山市)で研修を受けています。やはりがんの症例数が多い病院です。
広島市立安佐市民病院(広島市安佐北区)の多幾山渉病院長とはそこで、1年半ぐらい一緒に働きましたからよく知っています。四国の地でであった広島大学出身の先生ですが、今は2人とも広島市立病院の院長ですから不思議な感じです。再会した時は懐かしかったですね。今年の4月の独法化を機に、お互い広島市立病院機構の理事になりました。今は毎月会議で会っていますし、それ以外でも会う機会は多くなりました。
広島市立安佐市民病院もがんの症例数は多い病院です。良きライバルの病院として、お互いを高めながら協力していきたいと考えています。
― 岡山大学病院の臨床研究に参加していますね。
岡山大学病院は昨年4月、厚労省の整備事業で、臨床研究中核病院になりました。大学の関連病院と連携し、「中央西日本臨床研究コンソーシアム」を発足しています。
岡山県外にありますが、当院も関連病院なのでそれに参加しており、治験など多くの臨床研究に協力しています。今後がんの分野でも、貢献できると思いますよ。
那須保友教授(岡山大学病院副院長研究担当)が非常に熱心に取り組まれており、協力病院としてこちらも力が入っています。