中津市立中津市民病院 院長 横田 昌樹
病院の敷地に入ってまず目に飛び込んできたのは、駐車場の屋根に設置された太陽光発電装置。2012年の病院建て替え時に設置した。風力発電も併用し、地球環境にも配慮している。院長の趣味は魚釣り。釣り糸を垂らしているとリフレッシュできるそうだ。
5年前に福岡の九州がんセンターから当院の副院長として就任しました。
これまで病院の建て替えや引っ越し、がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院、地域周産期母子医療センターなどの指定を受けることができました。
5年間で入院と外来患者数が増加し、常勤医師数も同じく増えていて、常勤医39名、研修医6名の体制をとっています。中津市が全面的にバックアップしてくれるおかげで、設備、医療機器も充実しています。
当院は小倉から特急で約30分、自動車だと約1時間半、大分市、別府市からも車で約1時間の距離にある大分県北部の病院です。地域の救急医療を担い、大分県北部と福岡県東部の一部を含む24万人医療圏の中核病院としての機能を有しています。
大分市の人口は47万人で、250床以上の病院が4か所あります。人口24万人の福岡市南区には日赤や九州がんセンター、徳洲会病院など大きな病院があります。
24万医療圏の中でわずか250床の当院が、唯一の基幹病院として高次機能を有しているので、責任は重大です。他の病院に搬送するにしても、救急車で1時間かかります。大分県でもドクターヘリの運用が始まりましたが、できるだけ当院で完結させたいとの思いがあります。職員はたいへんだと思いますが、やりがいも感じられるのではないかと思っています。
今後は心臓血管外科、整形外科の必要性を感じています。でも診療科を増やした場合、250床では足りなくなる可能性があるので、将来的には増床も視野に入れていますが、まだ具体的な計画があるわけではありません。
がん診療連携拠点病院なので、年4回、地域の中核病院として、適切な治療とともに、住民自らのより健康的な生活を維持するために、がんを始めとする疾病の予防、早期発見、治療に関する正しい知識を持つことを支援するために中津市民病院健康教室を開催しています。毎回60人ほどが参加し、その模様は地元のケーブルテレビで毎回放映されています=下の写真。
ドクターには常々「自分や家族が患者ならどうしてほしいか」を考えて診療してほしいと思っています。看護師には自分の家族がかかりたくなる病院にしようと言っています。私たちが若いころに比べると、今の若い人たちは非常に優秀ですが、まれに優秀であるが故のごう慢さを併せ持った人がいます。若い時は仕方がないのかもしれませんが、謙虚な気持ちと、患者さんの目線に立つことを忘れないようにしてもらいたいですね。
医療の仕事はやりがいがあると思います。警察や消防と同じ社会のインフラの1つで、人が幸せに暮らすためには必要不可欠です。IT時代の現代でもコンピューター相手に仕事をするわけではなく、人が相手の職業ですから、勉強ができるというだけで医師になってもらいたくありません。やはり人間力が問われる職業なので、優しさと謙虚さを持った人にこの世界に飛び込んできてほしいですね。
大都会の病院のように患者さんの奪い合いはありません。逆に患者さんが集中してしまうので、救急などは疲弊してしまいます。職員の使命感、献身的な働きで持ちこたえている状況です。職員の疲れを軽減しつつ、患者さんの期待に応えなければならない。そこが悩みの種ですね。そのために職員数をもっと増やさなければと常々考えています。
本来、管理職よりも現場で仕事をしているのが好きです。院長になって、若い人たちにいかに自分の気持ちを伝えるかを考える時間が出来ましたが、副院長の時は患者さんを受け持っていたので、物事をじっくり考える余裕はありませんでした。とは言え、まだ臨床に未練があるので、今は人数を絞って外来患者さんのみ診ています。
医師の数がまだ十分ではありませんから、副院長も当直をしています。中津はへき地ではありませんが、都会でもありません。大分からも福岡からも距離があり、人の確保に苦労しています。
中津市の人口は約8万5千人で大分県では大分市、別府市に次ぐ第3の都市です。市長の努力で、第一次産業を守りつつ、製造業の誘致にも成功し、人口は横ばいの状況です。少子高齢化の流れは全国どこの町にも共通する悩みですが、中津市の合計特殊出生率は、全国平均が1・.4人に対し、中津市は1・84人で、県内では最高、全国的にも高い水準にあり、小児医療と周産期医療の需要が高く、当院がそれを一手に担っています。
大分県は一人当たりの鶏肉消費量が日本一と言われ、なかでも中津市は唐揚げを売る店舗が多く、市民に人気の食べ物です。唐揚げのためだけではないでしょうが、塩分や油分の摂りすぎのためか大分県の中では脳や心血管系の疾患も多い地域です。病院食でも入院患者さんから「塩気が足りない」という苦情が出ることがあります。食事習慣に関しては地域住民に対する啓蒙も必要だと思います。