産業医科大学 副学長 産業医科大学病院 病院長 佐多 竹良
専門分野は重症患者管理。日本麻酔科学会指導医・専門医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医。
今年4月に病院長に就任した。それまでは産業医科大学若松病院の院長だった(2013年9月20日号にインタビュー記事)。病院長としての日ごろや病院経営について尋ねた。職業を通じて得た人生観も聞いた。
組織が大きいですから、院長職としての仕事が前より増えました。院外でも、たとえば福岡県病院協会の会議など、役職指定みたいなパブリックな仕事ですね。
院長は副学長も兼ねます。診療の時間を作るのは難しいですが、毎朝できるだけ手術室に入ってカンファレンスには出ていますし、ベッドサイドの学生の相手をするようにしています。これは若松病院長時代にはできなかったことで、それはうれしいですが、診療ができないのは寂しいです。
久しぶりに学生を見て、医者になったら自分の都合で患者を診ないのは許されないことの理解が弱い人がいます。まあ、私も学生の時はそうだったかもしれませんが。
麻酔の講義をしたり試験問題を作ったりするのは、私もやりますが、極力若い人にやってもらうようにしています。
専門医の試験を受けるレベルの学生に試験問題を作らせると、ものすごく真剣に全分野を勉強するんですよ。受験した学生からもいろいろ細かな指摘があって、それがレベルアップにつながります。何年も前からそうしているので、みんな嫌がらずにやってくれます。
私が教授になったころは1人で作っていたんです。年に5回くらい作るので一年中作っているようなものでしたし、学会の専門医の試験作成も依頼されたりして、ちょっと大変でしたね。
昔は教授の指示が絶対でしたが、今はそうではなくなって、それが医師の偏在を引き起こし、地域医療の崩壊につながったと思います。新臨床研修制度の影響は大きかったですね。また26年度の診療報酬改定で、経営の苦しくなる病院は増えるでしょう。7対1の維持できない病院も増加するはずです。加えて消費税の増税です。その対応策として地域包括ケア病棟を作ろうという流れもあるようですが、在宅復帰率などもあって、これも大変でしょう。老健施設のある急性期の民間病院ならうまく回せるかもしれませんが。
厚労省が、消費税の増税分を財源とする「医療提供体制の改革のための基金(仮称)」として900億円を設けました。最終的には地方の医師会で使い道を決めることにならざるを得ないでしょう。でも大学病院や勤務医にとって状況の改善にはなりにくいと思います。
医学は日進月歩ですから、医師は一生勉強です。
医者と患者は対等だと言いますが、医療現場では弱い立場の患者も多いと思います。医師には特権があると思っている医者もいるでしょう。でも決してそんなことはない。その意味でプロになってほしいですね。他人に共感を持って献身的に働き、同僚や先輩、メディカルスタッフなど、自分の周辺にいる人たちに評価される医師であってほしいと思います。
医療に携わってよかったと思います。いろんな患者さんと出会いましたし、救急や集中治療をしていた時が長くあって、麻酔科医とは違う経験もしました。そのころに患者さんの人生の側面や裏側を見ました。
人生というものは、つまらないものかもしれませんが、なかなかのものでもありますね。
最近の科学では、ポジティブに考えていれば健康にいいと分かってきているようですが、そればかりで生きていくことはできません。誰の人生にもアップとダウン、いい時もあれば悪い時もある。それが人間です。
ラマツィーニ像
正門から大学本館1号館に向かって歩くと左にベルナルディーノ・ラマツィーニの像がある。
説明書きに「1633年イタリーに生まれ、1714年に81歳の生涯を閉じるまで、近代医学、特に産業医学の学問的先駆者として、また市民や働く人びとのための実践的医療に活躍した医師である。現在も全世界において『産業医学の父』として慕われている」とある。後ろのラマツィーニホールでは産業医学基礎研修会集中講座を開催中で、取材翌々日の7月31日には佐藤茂樹厚生労働副大臣が視察のため来学し、この講座のほか、大学病院の総合周産期母子医療センター・手術室・集中治療部、産業生態科学研究所を見学、佐多院長らが対応した。