パニック障害は「パニック症」 性同一性障害は「性別違和」 言語障害は「言語症」 日本精神神経学会が精神病疾患名に新指針

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日本精神神経学会/精神科病名検討連絡会座長
九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野教授  神庭 重信

1980 慶應義塾大学卒、1993 慶應義塾大学講師、1996 山梨大学精神神経医学講座教授を経て2003 九州大学医学研究院精神病態医学分野教授。 著書に「気分障害の診療学」(中山書店) 「精神科診察診断学」(医学書院)「現代精神医学事典」(弘文堂) 「うつ病の論理と臨床」(弘文堂) 「うつの構造」(弘文堂) 「Advanced Psychiatry」(金芳堂) 一般書に「こころと体の対話-精神免疫学の世界」(文芸春秋社) 「女性とうつ病」(医薬ジャーナル社)新刊「思索と想い/精神医学の小径で」(慶応義塾大学出版会)などがある。

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 日本精神神経学会が精神疾患の病名に関する新しい指針を発表した。

米国の新しい診断基準「DSM=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders -5」が19年ぶりに改定されたのを機に、病名や用語の日本語訳に混乱が起きないよう、同学会の精神科用語検討委員会が、精神科関連15学会・委員会と「精神科病名検討連絡会」を作り、17回の会議を開いて検討を重ねた。その際
①より分かりやすく、患者の理解と納得が得られやすいもの
②差別意識や不快感を生まない名称
③国民への認知度を高めやすいもの
④アルファベット病名はなるべく使わないなどを考慮したという。

 まず報道関係の人に強調しておきたいのは、あくまで米国の診断基準に出てくる病名の訳語だけ決めたということです。

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 精神科の病名は、学会の発行している用語集が別にあり、それを変えたわけではありません。日本の伝統的な精神学の体系で使われている病名と、米国から入ってきたDSM、そして厚労省の採用しているWHOのICDという診断分類の3つがあります。

 だからDSM―5が出たからといって、WHOのICDが直ちに変わるわけではありませんし、日本の伝統的な病名もたぶん残り続けるでしょう。しかしDSMの影響力は無視できませんから、2017年のICD改定に大きな影響をおよぼし、日本全体の病名や、裁判やマスコミの使う病名も少しずつ変わっていくだろうと思います。

 このたび「障害」のつく児童青年期の精神疾患名の多くを「症」に変更しました。病名に「障害」がつくことは児童や親に大きなショックを与えることになるだろうとの配慮からです。またDSMの病名disorder を「障害」にすると、disability と混同され、回復しない印象も持たれるかもしれません。ただし全病名の「障害」を「症」に変えるのではなく、児童青年期の疾患と、不安症など一部の関連疾患だけにしました。

注意欠陥・多動性障害 → 注意欠如・多動症
アルコール依存症   → アルコール使用障害
神経性無食欲症    → 神経性やせ症
学習障害       → 学習症

 病名をやわらかく変えることには大きな意味があります。

 たとえば精神分裂病は、不治の病で、廃人になるという印象がありました。こうなると立ち向かうどころではない。それが統合失調症になって、患者さん本人が向きあいやすくなりました。

 このたびの「性別違和=gender dysphoria」も、DSM―Ⅳの文中の用語としてそう訳していたんです。それが今度、病名になりました。DSM―5の策定に当たって米国の患者会から、社会が自分たちを認めてくれればいいだけの話で、認めてくれないから自分の性に対して違和感を持たざるを得ないのだというメッセージが込められています。

 もっと分かりやすい例がホモ・セクシャルティです。1976年に患者団体が、ホモ・セクシャルティは精神疾患ではないと主張したわけです。それまでは精神疾患ということでしたから、治そうとして手術したり薬を使ったり暗示をかけたりして、いろんな治療を試みていました。しかし、個々の好みだとして社会が受け入れれば済むだけのことで、1980年のDSM―Ⅲでは、ホモ・セクシャルティは病気ではなくなり、文中から抜け落ちました。それで現在までまったく問題がありません。そうすると、精神疾患とは一体何だろう、違っている人を社会に合わせようとする精神医学とは何だったのだろうという疑問がわくことになります。

 だから性別違和もDSM―6で病名から抜けるかもしれません。ただ、病気のほうが性転換手術の際にメリットがありますから、患者団体としては病気から外してほしいとは思わないでしょうね。

 今の仕事を通じて感じていることは、毎日、自分にできることをする、ということでしょうか。

 病気を持っていても健康でも、やることが毎日あるのがいいと思います。私は仕事の山に埋もれて喘いでいるだけですけど。

 今できることを一生懸命やって、先のことを思い煩わないのがいいんじゃないでしょうか。でも自分のためだけを考えていたら虚しいから、誰かのためになっているほうが自分の支えになるし、喜びも大きいでしょう。

 晴耕雨読が老後の夢です。都会ではない場所で地域の医者をやりながら、余暇に本を読み、テニスをするのがいい。精神科医として、みとりを含めて往診をやってみたいんです。

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 12月4日と5日に福岡国際会議場で、第67回九州精神神経学会を開催し、学会長を務めます。第60回九州精神医療学会(冨松愈会長)との合同開催です。特別講演で、ライブドアを起業して時代の寵児となり、その頂点で財産も名誉も失う経験をされた堀江貴文氏をお招きし、どのようにして再出発を果たしたのか、その貴重な経験をお聞きして、挫折に悩む患者さんの参考になることを勉強したいと思います。彼のたくましさは見習うところが大きいと思いますね。

思索と想い 精神医学の小径で

神庭重信著 慶応義塾大学出版会

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『思索と想い 精神医学の小径で』 神庭重信 著 慶応義塾大学出版会

 筆者と取材で話したことのある者として、同世代の読書家の一人として、しかし医療を学んでいない者として、本書を読んだ。

 歯が立たない専門用語はすっ飛ばしながら、森有正(哲学者、フランス文学者)や高橋健二 ( ドイツ文学者) の名を目にとめ、もしも精神医学を学んでいたら、また違う味わいもあっただろうにとの想いが湧いた。私は外国で何年か暮らした経験があり、その時に持参したのが高橋健二訳のゲーテとヘッセであり、森有正の「思索と経験をめぐって」だった。

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 さらにうれしいことに油絵「The Doctor」に触れている。内容は省くが、神庭氏は2011年の第24回日本総合病院精神医学会総会でこの絵を取り上げ、医療の終わりと死との狭間に何があるかを見つめてほしいと、会場の若い医師に訴えた。取材でその場にいた私も心を打たれ、いまだに考え続けており、そのことで当時に比べて記事に深まりが出たように思う。 心と体は一つだという。医療者には私以上に興味を持って読める本である。420ページ=3,700円+税。(川本)


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