地方独立行政法人 下関市立市民病院 理事長/院長 小柳 信洋
そばに新棟が建ちます
本館の隣に4階建ての新棟を増築する工事が7月から始まります。1年後には稼働できる計画で、本館とは渡り廊下でつなぎます。
この本館は昭和63年にできているんですよ。25年経って設計の古さが目立つようになりました。まだしっかりしているのですが、会議のスペースがなく、患者さんに手術前の説明をする場所もままなりません。もう1つは、ここは地域がん診療連携拠点病院ですから、緩和ケア病棟を持ちたい。さらに、うちには透析センターがありますが、配水管など水回りを改修する必要が生じ、部屋も狭くなった。この3つの目的があって、そばに地域医療センター(仮称)という新棟を建てることになりました。
医師確保の難しさ
山口県はどこも医師不足で、あちこちの大学にお願いに行きます。でも「下関出身の教室員はいます。でもあと10年か20年歳を取らなければ帰らないでしょう」と言われるんです。以前ここにいたドクターで、父親は下関で開業しているのに、子供の将来のためと言って、廃業して福岡に移った人もいます。
うちは医師が60数人いて、そのうち50人以上は九大卒ですよ。そしてその半分が山口県出身です。地元に派遣されるなら行きやすいということなんでしょうね。言葉や文化に馴染みがありますから。
山大医学部が宇部にありますが、大学自体が医師確保に困っているような状況です。
当院は目の前の海峡を越えたら福岡ですから、やはりそちらに目が向きます。でも、狭い海峡ですが福岡に住む人にしてみると、下関は「海の向こう」という感じです。ここに来る前、飯塚病院(福岡県)に10年いたのですが、そこも福岡から見れば「八木山峠の向こう」といった感がありましたから、そうだろうなと思います。
個人的に思うこと
国の医療が混合診療に向かっていたり、高齢者の自己負担分が高くなったり、それらも含めて少し方向が違うのではという気が、個人的にはしています。
米国で使っている新薬が効くからと主治医から聞けば、素人の患者さんはその気になりますよね。そして親戚知人からもお金集めて治療を受けようとします。それは当然だろうと思います。主治医にしても学問的な興味もあるだろうし、患者さんが助かるならと思っての言葉でしょう。ではその薬を使ったとして、寿命がどれくらい伸びるのですかという話ですよ。
一般的な抗がん剤というのは10人に使って2.5人、25%くらいの人が、腫瘍が大きくなるのが止まったとか小さくなったとか、あるいは無くなったとか、有効率25%なら立派な抗がん剤です。そこに新薬を使って、25%が35%になったとして、その差の10%の中に自分が入るかどうかの保証はどこにもないわけです。しかも、仮に新薬の効く10%に入って治療が有効だったとして、では寿命がどれくらい伸びるのかということです。せいぜい半年か1年でしょう。その程度の効果のためにお金をかき集めるだけの価値があるのだろうかと、個人的には思います。
医学知識のない一般の人には、新しい薬を使えば治るというイメージがあるでしょう。だから、それが使えないとなると治らない。治らないなら死ぬしかない、となるんです。でも医師にすれば、寿命が延びるとしてもせいぜい半年ですよというイメージですからね。四苦八苦して1年生きるか、それとも3か月を自分らしく生きるかということでしょうね。
医師の卵にひとこと
医学とは興味が尽きないもので、予想を覆されるような意外なことがよく起こり、いくつになっても没頭できる職業ですから、がんばってごらんと言葉をかけたいです。ただ最近は、楽な医師になりたがる人が増えています。せっかく打ち込める対象、熱中できる対象が目の前にあるのにもったいないと思います。
私の体験では、ある患者さんの治療に夢中になると、一晩くらい寝なくても平気なんですよ。そして疲れも感じない。分からないことがあれば文献で調べるし先輩にも聞く。それが許される仕事です。そして、やればやるほど患者さんや家族に感謝される。そこは本当にありがたいですね。