社会福祉法人 恩賜財団 済生会支部 香川県済生会病院 院長 若林 久男
愛媛大学医学部の5期生で、岡山の出身ですが、以来ずっと四国に出っ放しです。
大学を卒業するころ香川医科大(現香川大学医学部)ができ、私はその第一外科に入局しました。岡山大学から赴任された田中聰先生が初代教授で、この時期の入局です。
英語を勉強してECFMG(米国で診療ができる資格)の試験に合格しました。移植外科のクリニカルフェローとして、米国に留学しています。貴重な体験をしたと考えているので、若い人には海外で診療にも挑戦してほしいと思います。
以前から済生会にいるわけではなく、初めて来たのは平成20年です。もとは栗林公園(高松市内の県営公園で、特別名勝)の辺りにあったのですが、小川裕道名誉院長の英断で平成16年に新築移転してきました。当院周辺は、県内では珍しく公示地価の上がっている地域で、道路も整備され始めています。建った当時は寂しい場所だったので、名誉院長の先見の明ですね。以後、手術件数も増え始めました。患者も医師も増え、知名度も上がっています。手術件数は年々右肩上がりで、昨年度は1千600例超でした。今年は香川大学から常勤の麻酔科医が赴任されるので、もう少し増加するものと期待しています。
当院には副院長として赴任し、臨床のみならず病院管理経営に携わってきました。昨年1年は特に、院長補佐として小川名誉院長に学ばせていただいています。
昨年までは、自分のアイデアを提示すれば良かったのですが、今度はアイデアを出される立場になりました。自分が提案を多くしていた分、他人のアイデアの採否はちゃんと検討しようと思います。
当院はまだ医療機能評価を受けていません。4月に申し込みを済ませ、来年受審予定です。またDPC対象病院ではなく、今年準備病院になりました。医療の質は良いのに、当院はこれまでいろいろなことができていなかったわけです。今後は少しずつ挑戦していきます。
済生会組織では本部や病院長会などを通して、病院管理経営の研修や情報交換の機会が頻繁にあります。しかし個々の病院や施設運営については、その長に任せられますので、責任も問われますが、やりがいを感じます。
できていなかったことに挑戦したい
病院を少しずつ変えようと考えていますが、それでも一番重視すべきことは人材育成です。建物や設備がいくら良くても、いい仕事をするためには人が必要です。「医療を提供するのは人」だと、職員には言っています。そのために、満足度が高い、働きやすい職場にしたいと考えています。
看護部は職員研修に熱心で、独自にプログラムを組んで接遇の研修などをしていますが、病院全体でやっているわけではないので、今後そういう取り組みを強化していきたいと思います。そうすることで、良い人材を呼び寄せることになると考えています。
全国に済生会の病院は95院あり、365の福祉施設があります。その中で当院は198床と少し小さい規模です。医療療養病棟50床もありケアミックスタイプなので、急性期医療だけで運営している病院ではありません。しかし私が見たところ、各科ともレベルの高い手術をしていますし、良いアウトカムを出しています。医師たちには、急性期を頑張ってほしいと思いますね。
療養病棟には、急性期病院を退院した方の受け皿の役目があります。今後どうするべきか、当院の都合だけでなく、地域の要望も考えて決めたいです。いずれにしても、院外連携の仕組みを今後はもっと強化する必要があります。
4月に済生会の全病院長会議が行なわれ、その席で新任院長とは特に仲良くなりました。経歴は違っても、院長としては同期ですから、親近感を持っています。せっかくの巨大なグループですから、全国の先生と仲良くして、協力していきたいです。
診療船事業について
岡山、広島、愛媛、香川の4県の済生会病院で協力して、済生丸という診療船を運用しています。岡山済生会総合病院に事業推進事務所が置かれ、当院に船の管理事務所があります。1年のうち合計3か月間香川県で使い、その時は高松港に停泊します。そこから例えば直島(香川郡)などに向かうわけです。昼ごろに帰れる島もありますが、伊吹島(観音寺市)などの遠い島は、昼に診療した後に1泊して、翌朝また診療して帰ってきます。
医師は私を含め26人なので、現場から1人減るのもつらい。だから日常の診療機能を落とさないために、私か小川名誉院長のどちらかができるだけ行くようにしています。
人員的な問題だけでなく、金銭的にも苦労しています。本部事業だったのが、平成23年から4県の済生会の共同事業になりました。県内に済生会病院は当院だけなので、負担が大きいのが悩みです。しかしこの事業が我々の誇りであることも事実です。平成12年に廃止された県の診療船「さぬき」の肩代わりを引き受けた責任もあります。何とか続けたいですし、続けていくべきだと考えています。この事業をなくしてしまうと、職員のモチベーションは下がってしまうでしょう。
研修医を乗せることもありますが、ここでしか経験できないことなので、人気があるんですよ。学生実習で乗船した人が、もう一度乗りたいと研修先に選ぶこともあります。活動を通して、へき地医療の一翼を担うことの意味を、若い人には知ってほしいと思います。