家庭血圧を優先して高血圧を決めることになりました

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長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学教授 長崎大学病院副病院長 前村 浩二

1986 年 東京大学医学部医学科卒業/ 1996 年 同第三内科助手/ 1996 年 米国ハーバード大学留学/ 2001 年 東京大学医学部附属病院循環器内科助手/ 2005 年 東京大学医学部附属病院特任講師/ 2008 年 長崎大学大学院循環病態制御内科学教授
■長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学教授 医学博士 日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医 日本循環器学会認定循環器専門医 日本高血圧学会認定高血圧専門医・指導医 日本脈管学会専門医 日本動脈硬化学会専門医 日本医師会認定産業医 【研究テーマ】循環器内科学、特に動脈硬化、血管生物学 循環器領域の時間生物学

 1年半ぶりに前村教授に会った。名刺に「長崎大学病院副病院長」と追加されていた。それを言うと、「副病院長は以前もやっていましたよ」と笑った。

―血圧の目標値が変わったそうですね。

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 日本高血圧学会のガイドライン作成には私も関わりました。今年4月から努力目標を収縮期140、拡張期90(mmHg)と緩和しています。これまで日本高血圧学会では、140・90を高血圧だと定義しながら、努力目標として130・85という厳しい数値を設けていました。このぐらい低いほうが安心だという考え方で、それは正しいのですが、患者さんに指導する時に高血圧ではないので難しさがありました。また、厳しい数値ではあるので、血圧が下がりすぎて別の不都合が出る人もあったのです。

 高血圧が140・90というのは以前のコホート研究から導き出された数字で、久山町研究などでもこの数値を境に、急に脳卒中などが増えましたので、ここが要注意のラインだと世界中で決めているわけです。収縮期血圧が140あった人が血圧を下げればどうなるかという臨床研究では、下げた群の方がやはり脳卒中などが少なく、下げるべきだと結論付けされました。

 このような数値を出す時は、なぜその数値に決めたのかという理由も伝わらないと、専門家である医師も混乱すると思います。伝えかたは大事ですね。

 また、家庭血圧を重視しようという流れは以前からあったのですが、さらに今回は、家庭血圧を測っている人は外来の血圧を参考程度に考え、家庭血圧を優先して高血圧を決めようというふうになりました。白衣高血圧のほか、睡眠時無呼吸などで夜間のほうが高い人や、早朝高血圧もあるので、外来の血圧だけで判断するべきではないという考え方です。

―血圧を下げるためにどんな努力が必要でしょう。

 肥満の人は減量することも重要ですが、一般的には塩分(塩化ナトリウム)を減らすことが大切です。

 1日6g以下を目標にしますが、これはかなり薄い味です。ここまで一度に減らすと食欲がなくなるでしょうから、徐々に薄味にしていってください。

 動物にはある程度塩濃度が必要なのですが、陸上で生活し始めたので、塩分の摂取がむつかしくなりました。だからレニン・アンジオテンシン・アルドステロンを作用させ、塩分をなるべく体外に出さない仕組みを獲得したのですが、人間は豊富に塩を摂取できますから、今では逆に害になっているわけです。ヤノマモインディアンという部族がいるらしいのですが、塩分を1日1g以下しか摂らないらしく、この部族に高血圧はいないそうですよ。

 4年ほど前から、日本高血圧学会のランチョンセミナーでは2gしか塩分の入らないお弁当が出ますが、当初はあまりおいしくなかったですね。今は塩化カリウムを使ったり、香辛料を工夫したりして、食べられる味になってきました。

 ちなみに、日本抗加齢医学会では塩分のほか、コレステロールなどにも配慮した抗加齢弁当を食べましたが、こちらはなかなかおいしかったです。

―前回の取材で「劇的に治すのが循環器内科の魅力だ」と言われました。

 そうなのですが、大学教授なので、関連病院で手に負えない患者さんが来ることが多く、今の立場では毎回劇的に治せるわけではありません。

 難しい症例には2種類あって、高度な医療を施せば治るものと、原因などが不明なものとが存在します。前者の場合は設備や技術の問題ですから、特別な問題ではありません。長崎大学病院は県内唯一の植込型補助人工心臓の認定施設ですが、重症の心不全などは送ってもらえれば、その手術によって心臓移植のための待機ができます。

 一方、病態が分からないものは診断すらつかないので難しいですね。

 私自身はそういうものの解明にやり甲斐を感じていますし、使命だと考えています。高血圧でも、いろいろな種類の薬を試しても下がらない難しいものがあり、そういう患者さんがよく紹介されて来られます。それが例えば原発性アルドステロン症だと判明すれば、泌尿器科で副腎の腫瘍を取ってもらうというわけです。

 関連病院でもそれなりの検査をして分からないわけですが、大学病院には検査機器も特殊な物や高度な物がありますので、判明して治療できる場合もあります。高血圧で言えば、シンチグラムやカテーテルで副腎の静脈から採血する方法などを試します。

―紹介の際に注意してほしいところは。

 関連病院の先生方はみなさん優秀ですから、選別して紹介していただいています。注文を言うようなことはありませんね。県内では関連病院がアクティブに治療を行なっていますし、病診連携も機能しています。でも開業医の先生も、大学病院が必要だと感じたら、すぐに紹介してください。今は「紹介患者で溢れてこれ以上診られない」という状態ではありませんから、安心してください。気兼ねは不要です。

 循環器疾患はコモンディジーズ(一般的な病気)なので、どこまで専門医が診るかは難しい問題です。内科で開業される先生は、心房細動や高血圧に関する、ある程度の知識を持っていただければと思います。

―最近はどんな治療をしていますか。

 肺高血圧の治療薬で良いものができましたので、専門的に治療しています。肺動脈があちこち詰まる慢性肺血栓塞栓症の場合は、ひとつひとつカテーテルで広げていくBPA(バルーン肺動脈形成術)という地道な治療をやっています。岡山大学から習ってきたのですが、今軌道に乗り始めたところで、毎週1例やっている感じです。在宅酸素療法でQOLが下がっていた人も、回復して呼吸が楽になったと言われます。国内で何例もやっているのはまだ10か所ほどで、九州では久留米大学病院でも盛んです。まだ県内の患者さんしか治療していませんが、紹介があれば県外の方でも診ますよ。

 不整脈にはもともと強い医局でしたが、心房細動に対するカテーテルアブレーションは昨年から始めました。それまでは福岡山王病院(福岡市早良区)に頼んでいました。長崎でも本格的に始めることができるようになり、これも週1程度でコンスタントにやっています。

 また先ほども言いましたが、重症心不全を受け入れて、心臓血管外科と一緒にフォローするようなこともやっています。カテーテルによって冠動脈を広げるPCI(冠動脈形成術)は、年間200件を超えるくらいです。

 昨年10月から、大動脈弁狭窄症のカテーテル治療が保険適用になりました。加齢によって引き起こされたものは薬で治せませんし、患者さんが高齢のため、手術もむつかしかったんです。心臓血管外科の江石清行教授と一緒に病院長に頼み、この治療に対応したハイブリッドオペ室を1室作ることが決定しました。ですから来年は始めることができます。


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