乳癌治療のパラダイムシフト

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熊本大学大学院生命科学研究部 乳腺・内分泌外科学分野 教授  岩瀬 弘敬

昭和54 年に名古屋市立大学医学部医学科を卒業し、名古屋市立大学第二外科に入局。昭和58 年以降、乳がん、甲状腺がんを専門に診療している。平成5 ~ 6 年にロンドン、ガイズ病院に留学。その後、名古屋市立大学で講師、助教授(准教授)を経て、平成16 年に熊本大学大学院 乳腺内分泌外科 教授に就任。現在、熊本大学医学部附属病院がんセンター長を兼任している。 専門は乳癌の内分泌療法のメカニズム解析、分子標的療法、化学療法、手術療法などの乳癌治療全般。
日本乳癌学会理事(専門医制度委員長)・専門医、日本外科学会理事・指導医、日本癌学会評議員、数編の欧文誌のAssociate Editor, Advisory Board に就いている。

 今日は「乳がん治療のパラダイムシフト」と題して、乳がん治療の内容が大きく変わってきたことについてお話しします。

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 まず手術についてです。以前は小さな腫瘤でも乳房切除術が中心で行われていましたが、手術を縮小しても生存率には影響がないというエビデンスから、現在では乳房温存術が全体の60%の患者さまに行なわれています。また、病巣をすべて取り去るという意味で、腋窩リンパ節の郭清も行なわれていました。近年、病巣から一番早くリンパ液が到達するリンパ節、これをセンチネルリンパ節と言いますが、を組織学的に検査して、転移が認められなければ、このリンパ節の生検だけで腋窩リンパ節の郭清を行なわないことが通常です。さらに、ごく最近では、たとえセンチネルリンパ節に転移が認められても、腋窩部に放射線治療を追加することで、腋窩リンパ節郭清を全く行なわないということについて議論されています。

 また、昨年(2013年)に乳房切除後に人工物を用いて乳房を再建することが保険収載されました。それまでは、腹部や背中の筋肉や皮膚などの自己組織を用いた再建術しか認められていませんでした。このように再建術が広まりますと、乳管内に比較的大きく広がっている乳がんに対しては、温存術よりもきちんと切り取れる乳房切除術+再建術の方が適していると思われます。また、乳房が切除されているので、術後放射線療法の適応は無くなります。このような状況ですので、ここ数年は乳房温存をうける患者さんは全体の60%程度に落ち着いています。

 乳房手術や腋窩リンパ節郭清が縮小化している理由の1つに、乳がんに対する薬物療法の発達が挙げられます。薬物療法は化学療法(いわゆる抗がん剤治療)、ホルモン治療、分子標的療法と分けられます。特に、がん細胞の膜に存在する増殖因子受容体であるHER2(ハーツー)を標的とした治療は非常に有用です。

 ハーセプチン(一般名=トラスツズマブ)は、HER2 に対するヒト型抗体で、転移乳がんだけでなく、術前術後の補助療法としても使われるようになりました。またパージェタ(一般名=ペルツズマブ)という薬もHER2に対するヒト型抗体ですが、この薬剤とハーセプチン、抗がん薬とを3者併用することで、良好な効果を示しています。さらに、ハーセプチンに抗がん剤を強固に結合させ、HER2 陽性の癌細胞で抗癌剤が効果を示すような薬剤であるカドサイラ(一般名=トラスツズマブ・エムタンシン)が転移乳がんに使用可能となりました。標的細胞が定まっていますので副作用も比較的少なく効果も高いとされています。

 ホルモン療法薬も進歩してきました。フェソロデックス(一般名=フルベストラント)はこれまでのホルモン療法薬とは作用機序が異なり、これまでのホルモン療法薬に効果が認められなくなった場合にも有効性が示されています。さらに、アフィニトール(一般名=エベロリムス)は細胞内の増殖シグナルを遮断する薬剤ですが、ホルモン療法薬と併用することで極めて有用であるとされています。副作用は口内炎や間質性肺炎などがありますので、注意が必要です。

 抗がん剤ではハラヴェン(一般名エリブリン)が新しく使用できるようになりましたし、血管増生因子を抑制するアバスチン(一般名 ベバスツマブ)を抗がん剤と併用することで、やはり素晴らしい効果が得られています。

 つまり、乳癌の薬物療法は一筋縄では行かないくらいたくさんの種類と有効性があるんですね。今や乳がんを専門とする医師は、手術療法のことはもちろんですが、薬物療法のことをよく知っていないと乳癌の治療はできないということになります。

 一般市民の方が乳がんから命を守るということで、自らできることはマンモグラフィ検診を受けることだと思います。早期発見できれば乳がんは多くの場合完治できます。今は2年に1度、自治体が補助している検診があり、さらにクーポンで無料検診が受けられる場合もあります。積極的に検診を受けていただきたいと思います。また、自己検診も有用ですので、何か変わったことがあったら、乳腺外科(あるいは乳腺科)を受診してください。乳がんは婦人科が専門ではないということは、是非知っておいていただきたいと思います。

 私は毎月一回、患者さんと「乳がん勉強会」をしています。患者さんがお互いに情報を交換して支え合う、いわゆる「ピアサポート」は非常に重要だと思います。しかしながら、患者さんの中には、乳がんのことは忘れて普通の生活をしたいと考えておられる方もありますし、逆に何でもよく知りたいと積極的に参加される方など、様々な考えや病状の方が集まりますので、患者さまだけで成り立っている患者会の運営は、なかなか大変でしょうね。国はがん診療連携拠点病院などに患者相談支援センターを作り、患者会やがんサロンへのバックアップ体制を整えてきています。これまで独立していた患者会が、少し形を変えて、専門の看護師やメディカルソーシャルワーカー、さらにはボランティアの方々もいて、がんに対する新しくて正しい情報を得ることができるという方法が望ましいと思います。

 出身は名古屋です。熊本と名古屋は、加藤清正やそれぞれのお城のつながりで、何かしら共通点が多い気がしますし、食べ物の味付けが似ていると思います。熊本の馬刺はとてもおいしいですね。

 親は医者ではなかったのですが、医療の関係の仕事はやり甲斐があると思い、それなりに目標に向けて頑張りました。

 熊本に来たのは10年前で、熊本大学大学院に乳腺・内分泌外科が新設されることになり、その教授選考に応募し、選ばれました。私が初代教授ということになります。乳腺・内分泌外科は、乳がんに加えて甲状腺がんも診ているのですが、この分野だけで独立した講座を持っている国公立大学は少なく、全国で5大学(北大、東北大、阪大、京大、熊大)のみです。

 定年退職したあとは、自分の専門を生かした地域医療を行ないたいですね。過疎の地域では、乳がんや甲状腺がんを専門的に診る人がいないのです。ですから、常勤ではなく毎週か隔週に1回程度の非常勤医師として、その地域にある診療所や病院で専門性を生かした診療をしたいと思います。そのころまだ自分が元気で、さらに年寄りを雇っていただける病院があればという話ですが...。


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