社会医療法人社団陽正会 寺岡記念病院 理事長 寺岡 暉
■日本脳神経外科学会専門医・指導医 日本神経学会専門医・指導医 日本外科学会認定医 日本認知症学会専門医・指導医 日本医師会認定産業医 医学博士
陽正会の中心である寺岡記念病院は昭和21年、理事長の父である寺岡正医師が茨城県石岡市の鉄道病院の院長を辞し、郷里の芦品郡新市町(現福山市)に19床の有床診療所を開設したことに始まる。当時理事長は11歳。この頃は結核が国民病であり、その治療のために入院施設は必要だったという。昭和26年には病院になり、昭和52年に医療法人化、平成21年には社会医療法人となった。開業の地は現在理事長の自宅になっている。
―理事長の専門は。
父は内科医で、私の専門は脳神経外科です。
法人化した昭和52年に東京からもどり、脳神経外科を開設しました。私と同じ時期に帰ってきた弟(松本諄医師)が人工透析を始め、新病院の柱の一つになりました。現在人工透析の装置は46台あり、治療を受けている人は150人を超えます。腹膜透析の患者さんは4人通われています。
―病院の経営方針は。
病院の基本理念は、「トータル&シームレスケア=全人的で切れ目のない医療提供」で、公共性や社会性を意識して病院運営をしてきました。救急医療の割合が多い病院で、昨年度の救急車受け入れ台数は1千631件。近年は70代や80代の救急患者が多くなっています。
一方、回復期リハビリテーション病棟を作った平成19年以後は、リハビリセンターも充実させました。医師2人、PT20人、OT11人、ST7人のスタッフで、今後も増員が必要です。
昭和59年からは院内で症例検討会を行なっており、350回を超えます。こうした取り組みが、病病連携や病診連携の支えの一つになっていると考えています。
平成16年に、医療業務の一体化・効率化を図るため、また医療連携を図るため、画像情報の電子化を含む電子カルテ化を一挙に実施しました。今年4月から、広島県医師会HMネット(広島県医師会が構築・運営する医療情報ネットワーク。患者の同意を得て病院が開示した情報を、連携病院・診療所や薬局が参照することができる)に参加しています。スピーディーな情報共有は、今後の地域医療を大きく発展させるものだと考えています。統計が取りやすいのも電子化の良いところだと思います。
―今年度からDPC対象病院ですね。
DPCについては種々議論がありますが、医療の可視化と云う点では大きなメリットがあります。一定の基準により行なっている医療の質が公表されることになります。
自院を客観的に理解することや、地域での役割を見直すのにも良い方式です。客観視したことでがっかりすることもあると思いますが、目標設定の指針になると思います。
まだ慣れていませんが、利点を活かして病院運営に役立てようと考えています。コンサルタントは入れず、自前で研究チームを作って運営しています。
―ケアミックスの病院ですね。
総病床数263床のうち、回復期リハビリテーション病床が34床、亜急性期病床が8床あります。また医療療養病床が36床、介護療養病床が16床です。地域で求められる機能を考えて、このような編成になりました。介護療養病床を全部医療療養病床にすることも考えましたが、地域の要望もあり、とりあえず残しました。
このたび、2025年に向け病床機能報告制度が創設されました。急性期中心の病院や維持期中心の病院と、自院の役割、すなわち病院機能が分かれていきますが、それは私がすでに取り組んだことに繋がるものです。私は以前から、診療科によって病床を区別するのではなく、病床機能によって病棟を構成するべきだと考えて実践してきましたから、少しは先取りしていたと自負しています。
平成20年から後期高齢者医療制度が施行されました。平成18年の法案成立時には、強い批判が巻き起こりました。今日の2025年問題を考え、また「社会保障制度改革国民会議報告書」が止むを得ない方向性として、国民から受け入れられていることを考えれば、仕方ないことだったと思います。もう少し時間をかければ、あれほどの混乱はなかったと思います。
―医政に関して詳しいと聞いています。
特別詳しくはありません。長く医療に取り組んでいるというだけのことです。医師会の仕事もしていたので、医療の社会的役割に敏感ではあります。
―法人運営についてお聞かせください。
平成20年、府中市の一病院を経営統合し、介護療養型老人保健施設・クリニックに施設転換しました。
平成21年、社会医療法人となり、県立から町立に移管された神石高原町立病院の指定管理を受けています。超高齢過疎地域における病院の経営には困難もありますが、住民の安心のよりどころとして存続させなければなりません。
府中地区医師会エリアでは、平成2年に1千814床あった有床診療所を含む病床数は、平成24年7月には1千216床に減りました。同じ時期に290床だった介護ベッドは1千345床と急激に増えています。
本来、介護施設は医療の受け皿ではありませんし、情報が開示されないことで質が分かりません。介護施設に任せすぎることで、地域の高齢者医療が失われてしまう可能性もあります。市場原理的な地域包括ケアシステムに委ねすぎてはいけません。
高齢者の医療を主体的に担うのは、かかりつけ医です。そして地域医療の主役であるかかりつけ医をサポートし、地域全体を支援するのが、これからの病院の役目です。
病院の経営者は、そのことを忘れてはいけません。
私は、全人的で切れ目のない医療で地域に貢献することを目標に、法人運営をしています。慢性期とか維持期などと言いますが、高齢者の生活・生命は不安定です。いつ倒れるか分かりません。病院は、地域の診療所や介護施設と包括的に連携することによって、新たな地域システムを支援していきます。
―新しい施設が工事中ですね。
本来行政がやるべきことかも知れませんが、今「ローカルコモンズしんいち」という公共的な役割を担う包括ケアの拠点を、モデル的に作っています。今年の4月から順次オープンしており、認知症デイサービスや障害者の就労支援事業がすでに稼動しています。ガーデンの畑では、もう野菜の栽培を始めています。「ローカルコモンズしんいち」内には、健康食が食べられるレストランもあります。私の娘は医師ですが、北川クリニックの院長をしながらここのシェフをしています。美味しいとの評判です。
訪問看護ステーションは、府中地区医師会が中心になって動いている在宅医療推進拠点整備事業の、4つあるサブセンターのうちの1つです。
高齢者になると、年齢に合うしっかりした総合医療が必要です。しかし医療だけでは足りないですよね。医療以外の社会的な取り組み、ソーシャルキャピタルへの取組みとして、サービス付高齢者住宅「ウィル」を建設しました。地域社会においては、社会保障制度改革国民会議の報告書に書かれているように、生活支援やまちづくりに一体的に取り組むことが望まれます。府中地区医師会のエリアは狭くありません。このような取組みが地域事業として広まっていけば良いと考えています。