大分大学医学部 消化器内科学講座 教授・同附属病院 消化器内科長 内視鏡診療部長 村上 和成
所属学会 日本消化器病学会:財団評議員、指導医 日本消化器内視鏡学会:社団評議員、認定専門医、指導医 日本ヘリコバクター学会:幹事、評議員 日本臨床腫瘍学会:暫定指導医 日本消化管学会:評議員、指導医、胃腸科認定医 日本病院総合診療医学会:評議員 日本内科学会:認定医 日本肝臓学会、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本カプセル内視鏡学会、 日本感染症学会、日本化学療法学会、日本プライマリーケア連合学会、日本医学教育学会
「インタビューは、福岡国際会議場で開かれる学会の会場で受けますよ」ということになった。村上教授は第87回日本消化器内視鏡学会の初日5月15日、ワークショップで司会を担当した。
―学会で司会をうまくやるコツはありますか。
「演者の言葉が聞き手に伝わるように」ということでしょうか。聞いている人の様子や表情を見て、最後に念押しで演者に問い返したり、私の疑問のようにして再度語ってもらったりしています。
学会の司会は比較的多いです。私がこの分野をまとめればいいという会長の意向もあるようです。演者もよくやりますね。
―医者になった理由は。
生き物が好きだったんですよ。命に興味がありました。大学受験では一期校に広島大学の医学部、二期校は東京外大を受けました。英語も好きだったんですよ。そして広島大学に合格したため、医学の道に進みました。
私は文系タイプです。医者は文系だと思いますね。というのは、なによりも患者さんを安心させることです。治療する大前提として、不安にさせないということです。これはすごく大事なことで、私のモットーです。
どう応対したらいいかは患者さんによって違うので、そこを感じ取れるのは文系だと思います。
病院は来たくないところですから、患者さんが前向きになることが大切です。希望とかではなく、不安でなければいいと思うんですよ。そこは重要なところでしょうね。
―そこをもう少し詳しく。
患者さんと医師がいい関係を作るのは日本独特だと思うんですよ。主治医との信頼関係ができるのは、欧米にはないことです。医者をやっていて良かったなと思うのは、信頼された時ですね。
たかだか百年の人生ですから、その短い間に有能な若い医師を育て、それをバトンタッチして行けたらと思います。
良い医者に必要なのは、まずは人間味でしょうか。そのあと知識と手技だと思います。人間味や人情味の不足している人には、周囲の人が教えてあげることでしょうね。それを積み重ねれば、たいていの人は変わるのではないでしょうか。
―ストレスの多い仕事です。
ストレスは必要なものだと思っているんです。年を取ったからかもしれませんが、かなり大きなストレスが生じても、今はそんな時期なんだろうと、表面に出さずにやり過ごすようにしています。そう思うと、あまりたまらなくなりました。問題が解決したあとの安堵感というのも、なかなかいいものです。楽観的なのか、あまり感じない性分なのかもしれませんが、強くはなりましたね。
―消化器内科の専門家か
日ごろは大学病院にいて、週に何度か開業医の先生のところに行き、外来や病棟の状況を見ますと、大学病院の入院患者にくらべて、開業医のところにはお年寄りばかりで、かなり深刻な事態になっています。それが一般病院の現実です。
長寿はいいことですが、その行く末がどうなるかはむつかしいところですね。そこは学生時代、あるいは研修医の時によく考え、学ぶ場も必要でしょうね。
先ほども言いましたが、コミュニケーション力や人間味のある、近所のかかりつけ医の存在は重要になります。
―「消化器内科医としてオールマイティな実力を」と提唱していますね。
消化器内科の範囲は、がんから腹痛までとても広いです。食道があって胃があり、小腸、大腸がある。そして胆・膵・肝それぞれにも学会があります。そのすべてを高いレベルで診られる医者を育成したいんです。それが身につけば、日本のどこに行っても、たとえ田舎でも、とても強みになります。口からお尻まで全部分かるわけですからね。おなかですから婦人科とか泌尿器科がくっついているし、消化器をきっちりやるだけで、医療のオールマイティにもなれるんです。
記者は見た ―停泊中の帆船
博多港に4本マストの大型帆船が停泊していた。
それを背景に村上和成大分大学教授を撮ろうとしたが、逆光でむつかしかった。
「病院に来る人を不安にさせないことが大切」と教授は言う。それを聞きながら、福岡のある大きな病院で、医師から状況を単刀直入に言われた患者が、病院のエレベーターにも乗れないくらいのショックを受けたという話を思い出した。以降、その患者は治療そのものをあきらめたそうだ。その患者の知人が私に教えてくれた。
「知識や手技の前に、人間味や人情味のある医師に」。村上教授の言葉は、実はとても切実だ。(川本)