臨床心理士の想い21 坂梨 圭

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患者になる⑨

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 「溺れる者は藁をもつかむ」という言葉がある。

 3月にオーストラリアのブリスベンとシドニーに臨床心理についての調査に行ったときである。

 休日を1日取り、珊瑚礁をみるためにゴールドコーストでシュノーケリングをした。

 珊瑚礁ときれいな魚を見ながら海に浮かぶのは、へたなカウンセリングよりも癒し効果がある。

 きれいな海に顔を沈めてぷかぷか浮かんでいると、潮に流されていることさえも気づかない。ふと我に返るとかなり沖まで流されていた。

 「これは危ない」と顔を海面からあげた時、まともに波を顔にうけて海水を飲んでしまった。咳き込む。態勢を建て直そうとするとまた波が来る。

 あわてる自分と冷静な自分が頭の中を交叉する。ちょうどその時、釣り舟が近くを通りかかった。舟の上から大きな声が聞こえてくる。

 あわてる自分は「溺れる者は藁をもつかむ」思いで「ヘルプ・ミー!」

と叫べと言っている。でも冷静な自分は「こんなところでおぼれるのは恥ずかしい」という思いが浮かぶ。ふと海中を見ると、釣り竿の錘と餌が見えた。「私は釣られるのか」。そう思った。

 それから何とか態勢を建て直し、どうにか浅瀬に戻ることができた。幸運にも患者にならずにすんだ。

 臨床心理学では、援助希求性(help-seeking)という概念の重要性が言われている。私も研修会や講演会、また、クライアントさんには、「助けを求めたり、相談したりする援助希求性は大切ですよ」と話すことが多い。しかし、それは、かなりハードルが高いことを実感した。自分の自尊心との葛藤である。恥ずかしさとの葛藤でもある。日本でカウンセリング文化が根付かない一つの要因ではないかと思う。

 シドニーで個人開業の臨床心理士に話を聞いた。当地でもうつや自殺が多く、パーソナリティ障害のクライアントも多いということだった。街を歩くと開放的で明るい印象だが、多様な文化と人種の問題が根底にあるらしい。日本との違いは、臨床心理士が国家資格であるために、医師の紹介があると海外傷害保険も含めて、保険が使えるそうだ。そのため、その臨床心理士のクライアントさんの95%は保険でのカウンセリングとのこと。うらやましい限りである。

 日本も、うつ病の増加、自死は、大きな社会問題である。それらを解決するためには、薬物療法とカウンセリングの双方が必要で、しかし1回のカウンセリングが5千円、高いところでは1万円では、カウンセリング文化は根付きにくいだろう。何とかならないだろうかと思う。


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