福岡大学病院 病院長 田村 和夫
「病院にとってもっとも重要なのは、患者さんがいちばんカンファタブルな療養環境をつくることです。それをどうやって提供するか」。昨年12月に初の内科系院長として就任した田村院長は、インタビュー冒頭でそう言った。
「そのことを我々が知らないわけではない。でも、そこに投資するだけの余力が日本全体になく、そのツケがいま回って来ているのではないか」。
大学病院の院長として今をどう見ているのかを聞いた。
昨年4月、二次救急を始めました。他院との連携のために、12月に城南区、西区、早良区の救急病院に集まってもらい、消防署にも来てもらって話し合いをしたんです。
救急患者を容易にお願いできる点では助かるという意見があった一方で、当院への救急車の搬入が増加した分、他の医療機関が減り収益を圧迫していることでした。今後の重要な点は、患者さんをほかの医療機関に逆紹介をしていくことが必要で、その際にできれば患者さんを中心としたカンファレンスを持つことです。連携が見えるようにしたい。でもお互いが忙しくて難しい面があります。
そこで地域の医療機関との連携の一つとして、年に何度か、開業医の先生方にも演者になっていただき、メディカルセミナーを開いています。城南地域の看護師や薬剤師や医師の先生方と少しでも顔の見える形で議論をする場と考えて実施しています。そのあとラウンジでジュースを飲みながら、地域の先生方と意見交換や顔つなぎをします。いつも100人くらいの参加があります。
―がんセミナーは次回(3月28日=抗がん剤の副作用対策)で74回目になります。
これは、患者と家族、市民向けのがんに関するセミナーで、私が始めたものです。当初は十数人の参加者で家族的な会でしたが、今は50人とか60人とかの時もあるようです。一般に定着するまで数年かかりましたね。
―新任院長として、どこを見ますか。
大学病院は臨床、研究、教育の場です。新館を建て本館のリニューアルでかなり借金がありますので、収支に気を配りながら、大学病院とは何だろうと問いかけた時に、先ほど二次救急を始めたと言いましたが、一般病院でできることをやっていかなくてもいいじゃないかという考えもあったし、反対もされました。
でも臨床医を育てるには三次救急だけでは足りないんです。若い医師の一般救急を研修する場が大学病院にない。だから教育の場としての位置づけで組織作りをし、ACC(Acute Care Center=救急医療部)を立ち上げたのです。そこをローテーションして一次・二次救急の経験と知識を得られるようにすれば、2017年に変わる内科専門医制度にも対応できると思います。
若い医師は基本的な知識・技術が学べる教育体制を望んでいるのです。患者さんをプライマリーに診られる医師になりたいという気持ちは誰にもありますから。
研究については、臨床研究がいろんな診療科から月に20くらい出てくるようになりました。それが今の日本の臨床研究のレベルに合っているかどうかを審査したり、アウトカム=成果まできちんと見るようにしていきたいと思っています。
3月17日には、看護師、薬剤師、医療技術職員、そして助手、助教などから、研究しているものを発表してもらい、良い発表には私がちょっとした贈り物をする催しを初めて行ないます。日常の診療の中から疑問点をみつけ、解決していく研究マインドを育成していきたいんです。
診療に関しては、各診療科や診療部が持つ問題点をいろんな切り口で洗い出してもらい、改善すべき点については解決にむけての知恵を出してもらいたいと思っています。とくにDPCという包括医療の中で、採算を見つめながら業務改善をしてほしい。さらには、それぞれの職種の連携がうまくいくような体制づくりです。そこで院長になることが分かった時点で私が大学にお願いしたことは、副院長として看護部長に新たに入ってもらうことです。これは成功したと思います。看護師の持っている情報は膨大で、管理能力も高いですから、病院経営の立場で病院全体を俯瞰的に見てもらい業務改善に努力してもらうと、大きな成果を生むと思います。
今の人たちは健康志向です。そのニーズに応えるために予防医学の推進です。新館の隣にあるメディカルフィットネスセンターを使って、病気にならない健康指導をしたいと思います。そこからさらに抗加齢まで行きたい。人間ドックもニーズがあれば再開したいと思います。そして渡航ワクチンを含むワクチン外来。当院には東洋医学診療部もあります。今2人の専門医がいます。これからはがんなどの疾患に応じた東洋医学的な診療も積極的にやっていき、この分野を科学していきたい。
このように、今まで陽の当たらなかったところで我々にできることはたくさんあると思います。