医療と法律問題|九州合同法律事務所 弁護士 小林 洋二

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医療事故と法律(9)

 これまで主として医療事故の刑事事件としての側面に触れてきました。医師法21条問題も、その一つです。

 現実には、刑事事件として扱われる医療事故はごく僅かなものです。「刑事医療過誤Ⅱ」(判例タイムズ社)が収集した1999年以降2004年4月までの間の判決は79件112名、以前に比べて増加したとはいえ、年平均約14件といったところです。日本では年間約100万人の人が医療機関で亡くなっていますが、刑事事件になるのはそのうちの0.0014%です。また、厚労省が、医療事故情報収集等事業等の数字から試算した診療関連死は年間130件~2000件というものでした。この数字からすれば、診療関連死の約1%が刑事事件になっているということになります。医療関係者の中には、「結果が悪ければ罰せられる」と言われる方もおられますが、それは一部の事案が大きく報道されたことによってつくられたイメージであり、実態とは懸け離れています。

 では、どのような場合に、刑事罰が問題となり得るのか。

 一般に、過失によって人を死亡させた場合、刑法210条によって50万円以下の罰金に処せられます(過失致死罪)。特に、「業務上必要な注意」を怠って人を死傷させた場合、刑法211条によって、5年以下の懲役もしくは禁固又は100万円以下の罰金に処せられます(業務上過失致死傷罪)。「業務」というのは、「社会生活上に地位に基づき反復継続して行う行為であって、生命身体に危険を生じ得るもの」をいいます。業務上過失致死傷罪の法定刑が、過失致死罪よりも重いのは、人の生命・身体への危険を防止するためには、そのような危険を生じる行為を反復・継続して行う業務者に重い責任を課すことが必要であるからと説明されています。医療関係者の行う医療行為は、ここにいう「業務」であり、医療事故ではこの業務上過失致死傷罪の成否が問題になります。

 しかし、いずれにせよ、「過失」が要件であることは間違いありません。そしてさらに、その「過失」と「死亡」との間に因果関係があること、言い換えれば、その過失がなければその死亡は発生しなかったことが必要になります。

 もちろん「死亡」という悪い結果が発生しなければ業務上過失致死罪を問題にする必要もないのですが(業務上の場合には死亡に至らない傷害でも処罰の対象となりますが説明の便宜上ここでは死亡事案に限定することにします)、結果が悪かっただけで処罰されるものではないことをご理解ください。

 しかし、さらにこのように言われる方もおられます。「とはいえ、医療に万全はない。後から振り返って見ればあの時こうすればよかった、ああすればよかったというのが必ず出てくるのが医療というものなのだ。悪い結果から遡って重箱の隅をつつかれれるのであれば、結果が悪ければ罰せられるというのと同じではないか」

 もしそうであれば、医療機関で人が死んだにもかかわらず刑事事件にならなかった99.999%の事案は、医療関係者がたまたま幸運に恵まれただけだということになりそうですが、本当にそうなのでしょうか。


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