独立行政法人国立病院機構 熊本再春荘病院 院長 今村 重洋
熊本再春荘病院は、地域の一般医療(救急急性期)と従来からの政策医療(神経筋難病、重症心身障害、小児成育、リウマチ骨運動器疾患)を両立しているのが、特徴であり強みだ。昭和17年に傷疾軍人療養所「再春荘」として創設され、長い間、結核療養所として地域に貢献してきた。平成16年に独立行政法人になったのを機に救急急性期医療を拡充し、県北部の中核的病院として大きな変革をとげた。
現況は1日入院患者数384、在院日数16日前後、紹介率67%、逆紹介率59%、救急者搬送月平均106件で稼働しています。
平成11年に熊本県難病医療ネットワーク拠点病院、平成22年に熊本県指定がん診療連携拠点病院、平成24年には地域医療支援病院に指定されました。この3つが病院を支える柱だと考えています。
一般医療と政策医療を両立させている病院は少なく、それがうまくいっている病院のひとつだと自負しています。
建物が老朽化しているので数年内に建て替えできるように検討し始めていますので、新しい病院にふさわしいソフト面を備えなければなりません。
熊本県全体では人口がゆるやかに減少しつつあります。しかしこの地域は新興住宅地が出来て人口は増えてきています。
それに伴い、一般医療のニーズが高まっていますが、診療科によっては医師の確保に苦労しているのが現状です。地域医療支援病院として地域に良質な医療を提供しなければなりません。そのためには専門性の高い医師を確保することが課題だと考えています。
また、医療は看護が重要な役割を担っていますので、看護の質と専門性をあげないと、医療全体の質は上がらないでしょう。
以前は熊本再春荘病院付属看護学校がありましたが、平成20年に閉校しました。まずは多くの看護師を確保し、新人看護師の育成、認定看護師の養成に力を入れていきたいと思います。認定看護師の養成については、希望者が自己負担なく勉強に専念できるよう病院として最大限のバックアップをしています。
全国どこでも同じでしょうが、看護師の離職率が高くなっています。当院でも看護師のモチベーションが下がらないように、一昨年から教育師長を配属しました。離職すべきか悩んでいる看護師には個人面接をし、悩みを聞いてサポートする取り組みをしています。
医療人は心身ともに健全な状態で人に接するのが基本ですから、患者満足度だけでなく、職員満足度も大切にしていきたいと思っています。
救急急性期医療の現場だけしか知らない職員は、難病医療などの政策医療について理解しにくい部分があると思います。政策医療の患者さんは、長期に病院の中で過ごされるので、質の高い療養環境をつくるため、医療側と患者・家族が理解を深め、協力していかなければなりません。その際に、職員にもいろいろな葛藤や苦悩が出てきます。
それをいかに乗り越えるかについて私が職員に望むのは、もし患者さんが自分の親兄弟だったらどう接するか、自問自答しながら初心にリセットして臨んでほしいと思っています。これが医療の原点だと思います。
限られたマンパワーで、要望に十分に応えられるわけではありませんが、どのような状況でもしてはいけないことをしない、言ってはいけないことは言わない。それだけは守ってほしいと思っています。
例えば、状況によってはすぐに対応できない場合などがありますが、その時は理解協力してもらえるように丁寧に説明しながら、「この状況では、申し訳ありませんが、出来ません」、「申し訳ありません」という言葉が心の底から言えるようになってくれればいいと思っています。
一昔前と比べ、職員の接遇面や看護理念は大幅に向上しています。苦労も多いと思いますが、皆よくがんばってくれています。その姿を院長はじめ、幹部、他の医療職もしっかり認識し、お互いにチームを組んで支援していくことがもっと求められるでしょう。
我々が医師になったころと今とでは時代が違いますが、医師になりたい人は、相手が自分の親兄弟・子供だったらどうするかを念頭に置いて行動してほしい。激務で過労状態の時があっても、どこかで初心を思い出し、自分自身をコントロールできる医師になってほしいと思います。
人間学も必要です。異分野の人の話を聞くことで人間として成長できるでしょう。最近の若い医師は患者さんとのコミュニケーション力が不足していると聞きます。それは教育が影響していると思います。私達が子供の時は自然の中の遊びを通して学んできました。塾もない時代でしたから、勉強は学校でして、放課後は外で遊び、笑って、怒られて、泣いて、寝て過ごしました。地域のコミュニティでも、鍵も閉めずに開けっ放しの家ばかりで、近所の人が行ったり来たりする中で育ち、互いに助け合って育ってきました。学校教育以外からもさまざまなことが学べる時代でした。
今の人たちは学びの場が限られてとても窮屈に見えます。一概にコミュニケーションの問題を、個人の責任にはできないと感じています。
現代の医学では治らない神経難病の患者さんがたくさんおられます。でも医師も看護師も、自分達がこの患者さんのすぐ側にいること、ほかには誰もいないくらいの強い思いと自信を持ってほしいです。「あなたのそばにいつもいますよ」という気持ちを伝えられれば、同じ一日、同じ一週間でも療養環境の質は上がってくると思っています。