医療事故と法律⑻
自民党は一月末の厚生労働関係部会で、医療事故調査制度の創設を盛り込んだ「医療・介護総合推進法案」を了承、法案が通常国会へ提出される見通しとなりました。
この連載でも触れてきましたが、これは昨年5月の厚労省「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」のとりまとめに基づくものであり、当初、昨年秋の通常国会への法案提出が予定されていました。その予定が今年の通常国会にずれこみ、さらに一月二二日の自民党の厚生労働関係部会では、医療職の議員や、医師会の支援を受ける議員らから、医師法二一条や刑事責任との関係の議論が不十分であるという批判が相次ぎ、「医療版事故調暗礁へ」と報道されるような状況になっていました。これに対して、医療事故の被害者遺族などから構成される「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」(代表は都立広尾病院事件の被害者遺族である永井裕之さん)等は、「新しい医療事故調査制度における届出と医師法二一条の届出との関係は整理しなければならない事項の一つであって、これについては期限を決めて整理(改正附則に明記)すべきであり、医療事故調査制度の創設を否定したり、先延ばししたりする理由とはならない」という趣旨の意見書を提出しました。
医療事故調査制度の創設は医療事故被害者の悲願ともいえるものですが、医療界からこれに呼応する声が上がってきた背景には、この医師法二一条問題がありました。そして、二〇〇八年に策定されたいわゆる「第三次試案」は、医師法二一条の改正を含むものでした。医療安全調査委員会へ報告を行うことにより医師法二一条の異状死届出義務を免除する一方、医療安全調査委員会に報告された事案のうち、一定の悪質な事案については委員会から警察への報告がなされるという仕組みです。
医療界の批判は、この委員会から警察への報告という部分に集中しました。医療事故調査は刑事責任追及とは切り離すべきだというのがその主張であり、刑事責任追及の可能性があるのであれば、関係者は口を閉ざし、本当の調査ができなくなるという指摘もなされました。
こういった批判により、第三次試案が棚上げされ、事故調創設に向けての議論が頓挫してしまったことは、被害者たちにとってとても苦い経験でした。
二〇一二年に設置された「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」で、医師法二一条や刑事責任との関係が議論されなかったわけではありません。議事録をみた限りでは、相当の時間がこの議論に費やされているという印象を受けます。そして、その一応の結論が、「医師法二一条に関する議論は横に置いておかないと話が迷走する」というものであり、医師法二一条は現状のままにして、第三者機関からの捜査機関への報告は行わないという今回のとりまとめだったのです。
自民党厚労関係部会の結論は、法律公布後二年以内に医師法二一条との関係を調整して制度を見直すというものです。検討会の議論にも、被害者たちの要望にも沿った妥当な結論でしょう。事故調創設を先行させること、引き続き医師法二一条との関係について議論を続けること、いずれについても賛成です。