社会医療法人 芳和会 菊陽病院 院長 和田冬樹
―病院の特徴は。
無差別平等で患者さんの人権に配慮した、全人的で総合的な精神医療を目的に作られた病院です。
かつて日本で精神科の患者さんは、私宅監禁から病院収容されるという状況で、WHOによるクラーク勧告によってベッドを減らすように言われていましたが、世界の趨勢に逆行して増やし、ハンセン病患者の方々と同じように、国の政策で隔離してきたという負の歴史があります。
当院では、患者さんの人権に配慮した人間らしい生活が出来るようにしなければいけないと考えています。前身である熊本保養院(現くわみず病院)が1952年に設立されましたが、設立当初から患者さんが社会復帰するためにはどうしたらよいかを考えていました。自治会や家族会などと連携して「患者さんを地域へ」という流れを現在も引き継いでいます。
通常、精神科病院では患者さんの身体に関しては診られていない状況ですが、当院では中小規模の外来程度の診察もできるのが強みです。身体も精神も診られることが大事だと思います。また、精神障害者雇用の取り組みを、熊本県内では当院が初めて行ないました。
―アルコール依存症やギャンブル依存症も診療科目に入っていますね。
県内でそれらを診る病院は、あまりありません。
アルコール依存症は、一般医療の中でも差別され、精神科においても専門的な研修を経ずに医師になった人も多く、受け入れていない病院が多い状況ですが、菊陽病院は、ギャンブル依存症も含め、早い時期から受け入れています。
―うつ病は増えていますか。
特に外来が増えていますね。街中のクリニックなどでは、全体の3分の2はうつ病の患者さんだと思います。現在の日本は労働者が働きにくい状況になっています。
昔の企業は、メンタルに問題を抱えている人がいても、定年まで雇用し続けるという面がありましたが、最近の企業は余裕がなく、うつ病などで休職すると、以前と同じレベルで仕事をこなせるようにならないと復職させないというのが現状です。そういう流れの中でリワーク・デイケアというものができました。
―家族会はありますか。
入院を繰り返す患者の家族が中心に集まって、家族会が開かれています。スタッフでは家族に説明できることに限界があるので、家族会の中で、互いの悩みを話し合い、励ましあっています。医師としては、ご家族の方の気持ちがわかっているつもりでも、やはり家族の方と同じ目線ではないわけです。今後も家族会が発展するように、いろいろな面でのサポートをやっていくつもりです。
―休日の過ごし方や趣味は。
家族の行事にはなるべく参加しています。共働きのため、帰ったら家事もしていますので、趣味の時間はなかなか取れません。でも、できるだけ家族と過ごす方が、外来に来られる人の気持ちが分かるかもしれません。
趣味はこれといってないのですが、医学以外の本を読んだり、絵画鑑賞やクラシックを聴いたりすることですね。人間が心を回復していく時、絵を観たり音楽を聴いたりと、手段はいくつもあります。そうはいっても、私の場合は、やはり子供の寝顔を見るのが一番の癒しですかね。
人の心を診ることが仕事ですから、こちらの心が安定していないと患者さんを正しく評価できません。ハプニングなどがあっても心を乱されることなく常に一定に保つことが大切だと思い、日々、精神状態を平静に保つことを心がけています。
―2025年問題について
高齢者をどう診るかが今後の課題で、地域の一般医療機関でも必ず認知症患者の問題がでてきます。その際には精神科との連携が必要となってきますが、高齢者は体のどこかしらに病気を抱えていますので、その時に身体のことも分かる精神科でないと診ることができません。
身体合併症も含めて、当院では研修制度があるので、短い期間で実践力が身につくと思います。いずれ病院管理者になる人などが当院で研修すればいろいろなことを学べると思います。
―入口に保育所がありました。
職員向けの院内保育所です。近くに子供がいて、万が一病気になっても治療できるという安心感はあるでしょうね。
―職員の意見も大事にしているそうですね。
管理部で方針を作ったあと全職員で議論し、民主的な議論のなかで、みんなが納得した上で方針を決めていますので、目標を達成しようというモチベーションは高いと思います。建物を建てる際も職員全員の意見を反映させていますので、職員も仕事がしやすいのではないかと思っています。(聞き手と写真=新貝)