壱岐は麦焼酎発祥の地 世界が認めた「壱岐のむぎ焼酎」

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玄海酒造株式会社 会長 山内 賢明

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玄海酒造株式会社 会長 山内 賢明

 壱岐は福岡の西方、玄界灘沖にあります。かつて大陸の文化や文明は中央アジアを通り、中国、朝鮮半島から日本に渡ってきましたが、壱岐はその中継地でした。

 中国の歴史書「魏志倭人伝( ぎしわじんでん)」には、3世紀の壱岐のことが「一支国( いきこく)」として登場しています。豊かな自然に恵まれた「一支国」には多くの人々が生活しており、海を舞台に積極的に交流していたと記されています。また、日本最古の歴史書である「古事記」に描かれた「国生みの神話」によると、壱岐は大八州(おおやしま)の一つとして、本州よりも早く5番目に誕生したということです。

 そんな壱岐が「麦焼酎発祥の地」といわれていることをご存知でしょうか。

麦焼酎は壱岐独自の歴史と文化、大陸の蒸留技術から生まれた。

 壱岐は、離島の中でも数少ない自給自足ができる島です。意外に思われるかもしれませんが、壱岐は長崎県内で2番目に広い穀倉地を持ちます。壱岐における穀物づくりの歴史は古く、「一支国」の王都と特定された弥生時代の大規模な多重環濠集落「原( はる) の辻遺跡」からは、米だけでなく麦も一緒に出土しています。中国でも、この時代の遺跡から麦が出土するのは珍しいそうです。

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 壱岐で農耕文化が栄えたのは、豊かな水資源によるところが大きいようです。しかも、良質な地下水に恵まれています。また、壱岐は神道発祥の地といわれるだけに神社の数が多く、豊富な穀物と良質な水を原料に、神事につきものの酒づくりが古くから盛んでした。それが、長い年月を経て日本独自のどぶろく文化へと進化していきます。

 壱岐に大陸から蒸留技術が伝えられたのは、16世紀ごろのことといわれています。

 当時、壱岐は平戸松浦藩の領地でした。重税を課せられた島民の手元に米はほとんど残らず、主食は年貢の対象からはずされていた麦でした。そして、人々は少し余剰が出ると、蒸した麦でどぶろくを自家醸造していました。

 そこに、大陸から蒸留技術が伝わります。どぶろくは作り置きできませんでしたが、蒸留技術のおかげで、日持ちもし、長く置けば置くほどうま味が増すという、不思議な新しい酒ができ上がりました。先人たちは、島のどぶろく文化と大陸の蒸留技術を見事に融合させ、麦を主原料に壱岐独自の焼酎を生み出したのです。これが元祖壱岐の麦焼酎であり、壱岐が麦焼酎発祥の地といわれるゆえんはここにあります。

独自の原料配分が特徴の壱岐焼酎、国際ブランドの仲間入り。

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 壱岐の麦焼酎は大麦3分の2、米麹3分の1という独自の原料配分を持ちます。甘みがありながら、麦のさらりとした味わいを楽しめるのが大きな特徴です。江戸時代には島内に45軒あったという焼酎蔵元も、現在は7軒になりましたが、壱岐焼酎ならではの製法は今も脈々と受け継がれています。

 壱岐焼酎は平成7年、熊本県の球磨焼酎、沖縄県の琉球泡盛とともに、WTO(世界貿易機関)の「地理的表示」の産地指定を受け、国際ブランドの仲間入りを果たしました。その後、平成17年には薩摩焼酎と清酒の白山が追加されています。

 地理的表示とは酒類の確立した製法や品質、社会的評価を勘案し、原産地を特定して世界的に保護しようとする制度です。

地理的表示が指定されているのは世界でも数えるほどしかなく、ウィスキーの「スコッチ」「バーボン」、ワインの「ボルドー」「シャンパーニュ」、ブランデーの「コニャック」など世界的に知られた銘酒が名を連ねます。その土地で生まれ、その土地で同じ製法によって連綿と作られてきた、その土地ならではのものしか「産地指定」は受けられません。

 平成25年9月の壱岐市議会において「壱岐焼酎による乾杯を推進する条例」が可決されました。壱岐焼酎の普及促進に加え、世界が認めた壱岐焼酎を通じて伝統の食文化を見直したいというのが条例化の狙いです。

 私たち蔵元は、飲む人に喜んでもらえるような焼酎を造ってきました。それも、まずは壱岐焼酎が生まれる同じ風土に暮らす島の人々にです。手元にあるものを磨いて、外に広げていくことが理想であり、それは時代が移っても変わらない壱岐焼酎のスタンスです。

 今回の条例化は私たち蔵元を含めた島民にとって、壱岐焼酎が壱岐の風土そのものだということを再認識するいい機会になったのではないかと思います。

同じものは二つとない。それが本格焼酎ならではの醍醐味。

 今日、男女を問わず幅広い世代に親しまれている焼酎ですが、一口に焼酎といっても種類は様々です。

 まず、焼酎は「連続式蒸留しょうちゅう」(従来の甲類)と「単式蒸留しょうちゅう」(従来の乙類)に分けられます。

 連続式とは、連続蒸留機で繰り返し蒸留した100%に近いエチルアルコール原酒を水で割り、アルコール度数を36度未満に調整したものです。

 それに対して単式とは、単式蒸留機で一釜ごとに蒸留したもので、アルコール度数は45度以下。この単式の中でも、本格焼酎と呼ぶことができるのは、指定された原料を使用したものだけです。さらに、本格焼酎には醪(もろみ)取焼酎と粕取焼酎があり、麦焼酎発祥の地の壱岐焼酎、熊本の球磨焼酎、大分の麦焼酎、薩摩の芋焼酎、沖縄の琉球泡盛などは醪取焼酎に分類されます。

 最近では、甲類と乙類を混ぜた甲乙混和焼酎がありますが、本格焼酎とこの甲乙混和焼酎とは製法も味も全く異なるものです。

 蒸留を一釜ごとに行う単式蒸留だからこそ、醪取り焼酎は原料そのものの風味や、それぞれの酵母が醸し出す豊かな香りが多く含まれています。また、蔵元によって使う酵母や原料によっても味に違いが出るため、できあがった焼酎にはそれぞれの蔵の個性が現れています。言い換えるなら、同じものは二つとありません。これこそが本格焼酎の醍醐味です。飲み方も冷・お湯割り・オンザロック・ストレートと自由で、まさに自己主張できる全天候型の飲み物といえるでしょう。

丹精込めて造り上げた自慢の逸品、本格焼酎「松永安左エ門翁」

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 壱岐は偉人を多く輩出してきました。戦後、電力事業再編をなし、「電力の鬼」といわれた松永安左エ門翁もその一人です。松永翁はつねづね、「産業人とは、民衆の役に立つために働くものだ」と語っていたといいます。自らも産業計画会議を主宰し、成田空港、東名自動車道、東京湾横断道の必要を国に勧告するなど、日本の産業界に多大な貢献をしてきました。

 私は壱岐焼酎という壱岐を代表する産業に携わる一人として、かねてより壱岐の誇りである「松永安左エ門」の名を冠した焼酎を売り出したいと考えていました。そして、蒸留の際、品質が最も安定し、香味も優れた本垂の部分をホワイト・オークのシェリー樽で貯蔵して熟成させた古酒を、松永翁の名にふさわしい骨太ですが気品のある焼酎として世に出すことにしました。

 こうして誕生した「松永安左衛門翁」は、ふくよかな香りに加え、まろやかなコクとキレのある味わいが特徴の、当蔵の自信作です。実は、この「松永安左衛門翁」には、もう一つの思いがこめられています。

 中国の民主革命を主導した孫文を物心両面で支え続けた長崎県出身の実業家・梅屋庄吉、彼の妻トクは壱岐の出身です。中国政府は、梅屋夫妻の功績に感謝の意を込めて、長崎県に孫文・庄吉・トク3人の銅像を寄贈しました。壱岐市にはトクの胸像が贈られることになり、中国を代表して駐長崎総領事館の総領事が壱岐を訪れ、一支国博物館に設置されました。総領事は当蔵にも寄られ、壱岐焼酎に大変興味を持ってくださいました。

 後日、長崎の中国総領事館に招待していただき、本場の中華料理とマオタイ酒をご馳走になる機会がありましたが、そこでこんな言葉を耳にしました。「マオタイ酒の高級品には2種類あります。普段は飲めないが、お世話になった方に贈るもの。そして、買うには高いので、いただいて飲むもの。その最高の2種類を今日はお出しします」。

 これを、中国では「贈る人は飲まない。飲む人は買わない」というそうですが、この話を聞いて、「うちもそういう本格焼酎を造りたい」と思いました。誰か大切な人に贈りたくなる1本。逆に贈られたらうれしい1本。そして、一人で飲むのもいいけれど、誰か訪ねて来た時に開けたい、とっておきの1本...。

 本来、焼酎は庶民の酒ですが、みんなが憧れるような焼酎も造らなければならないことを、その時、学びました。それと同時に、玄海酒造が丹精込めて造り上げた「松永安左衛門翁」は、まさにそういう本格焼酎だということに、改めて気づかされたのです。

和食には日本の酒を、進化を続ける「壱岐のむぎ焼酎」

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 平成25年12月、ユネスコは「和食 日本人の伝統的な食文化」を無形文化遺産に登録することを決めました。日本の食文化が国際的な評価を得たことは喜ばしい限りです。これを機に、ぜひ日本の酒にも注目していただきたいと思います。

 食べ物と飲み物はセットで、和食にはやはり日本の酒です。日本で独自に発展し、今や清酒と並んで日本を代表する酒になった焼酎は、日本の食文化に欠かせない酒でもあります。和食とともに、今後さらに広く世界へ進出していってほしいものです。

 現在、壱岐の焼酎蔵元7軒は、それぞれ伝統の製法を守り続けながら、蔵の個性を生かした新たな焼酎づくりに挑戦しています。生産量は少なくても、壱岐のような小さな蔵だからこそできる丁寧な焼酎造りは、ますます多様化する酒類業界にあって貴重な存在となり得るでしょう。

 500年の歴史を持つ壱岐焼酎は、今も進化を続けています。壱岐焼酎を知るということは、壱岐を知るということでもあります。機会があれば、一度壱岐を訪れ、自慢の味とともに壱岐焼酎を味わっていただきたいと思います。名物の「うに」をはじめ、寒い季節なら脂が乗った「寒ぶり」がおすすめです。肉好きの舌をうならせるのは、歴史的にも超一級のブランドとして認められた由緒ある黒毛和牛の「壱岐牛」。他にも、その昔、故郷を遠く離れた防人たちが伝えたという「ひきとおし鍋」や、仏教とともに朝鮮を経由する形で日本に伝えられたという「精進料理」、昔ながらの製法を守り続けている「壱州豆腐」など、壱岐ならではの味がたくさんあります。酒は風土そのもの。壱岐焼酎には、壱岐の豊かな自然と歴史、文化が織り成す壮大なロマンが凝縮されているのです。(談)


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