NPO法人患者の権利オンブズマン(久保井摂理事長=福岡市東区馬出)はこのほど、昨年2件の診療記録不開示の苦情申し立てがあったとして調査報告書を公表した。
- 第13―1
- (2013年11月20日採択)
- 1申立事項
- 申立者=患者本人(女性66)▼医療機関の名称・代表者名・住所=公表しない▼開示請求年月日=2012年11月6日▼開示されなかった診療記録=診療録。
- 2調査経過
- 調査日=2013年10月25日▼医療機関側当事者=歯科クリニック院長、アドバイザー
- 3医療機関側の主張する不開示理由
- カルテ開示義務はないと認識していた。法及びガイドラインの趣旨を理解し、カルテ開示には応じるが、顧問弁護士に相談すること、さらに、手書きのカルテを順次電子化する作業をしているため、直ちには応じられない。
- 4不開示理由に関する判断
- 相手方クリニックは、カルテ開示につき、カルテを電子化するための作業中であるため応じられないとしている。しかし、法令上も厚生労働省の定める診療情報の提供等に関する指針上も、患者からの請求があれば医療機関は保有個人情報の開示に応じなければならないとされており、例外的に開示を拒むことができる場合を規定しているが、相手方クリニックが主張する上記事情は、カルテ開示を拒むことができる場合にあたらない。よって違法、不当に不開示を行ったと認められる。
- 5勧告
- NPO法人患者の権利オンブズマンは、診療記録不開示に関する申立人の調査申立に基づき専門的かつ客観的立場から調査を実施した結果、相手方クリニックにおける本件診療記録不開示には、特段の正当事由がなく、不当な不開示に相当すると判断した。相手方クリニックにおかれては、申立人に対し、速やかに請求された診療記録を開示するよう勧告する。
その際、申立人が相手方クリニックに対して開示請求したのは2012年11月6日とのことであるから、その時点で相手方クリニックが保管していた診療記録、すなわち、いわゆる電子カルテではなく、書面の状態で保管されている診療録の写しを開示することを勧告する。
もし2週間経過しても開示がなされない場合は、「違法・不当に診療記録不開示を行なっている医療機関等」として、相手方クリニックの名称、代表者氏名、所在地を記者発表等により公表するものとする。
また、この開示勧告を行ったことについては、同時に下記機関に通報するので、念のため付記する。
通報先
厚生労働省、山口県知事、日本歯科医師会、山口県歯科医師会
その後の経過
2013年12月4日、相手方クリニックよりNPO法人患者の権利オンブズマン事務局に申立人のカルテコピーが届いたので、申立人へ電話して送付した。
- 第13―2
- (2013年11月27日採択)
- 1申立事項
- 申立人=患者本人(男性60)▼医療機関の名称・代表者名・住所=公表しない▼開示請求年月日=平成25年8月頃▼開示されなかった診療記録=診療録、看護記録、検査所見記録、紹介状、その他(MRI画像)
- 2調査経過
- 調査日=平成25年10月31日▼医療機関側担当者=医院院長、看護師、受付事務員。▼請求に対する対応=申立人及び調査担当者が、平成25年8月頃に申立人が行った開示請求について調査するため当該医院に赴いたところ、院長より、「先日、申立人より、カルテ開示請求に関する書面を受け取り、既に開示に向けて準備を行なっていた」との回答があり、まもなく開示できるとのことであった。
申立人が従前カルテ開示請求をした際、院長が、「画像を開示すると、画像を集めるのを趣味にしている人がいるから、画像は開示できない」「先生を通してでないと開示できない」と言って開示を拒んだと主張している点について、院長は、前半の言葉については確かにそういう人がいて、そういうことを言ったと認めた。
後半については、仮に申立人のカルテ開示請求が、現在通院している医療機関からであれば、診療報酬請求という形で保険請求可能になるので、そういう趣旨か、それとも単なるカルテ請求かと確認したに過ぎず、申立人主張の様に述べたことはないとのことであった。 - 3勧告の要否等について
- 本件で、医療機関がカルテ開示を拒否した事実は認められなかった。画像については不開示の事実が認められ、これについて正当事由は認められない。もっとも、本件では、その後の経過で申立人が開示を求める意思はないと述べていることから、現時点では勧告の必要性は認められない。