独立行政法人 国立病院機構 四国がんセンター 院長 栗田 啓
院内研修センターの新設で地域連携に注力
当院は、国立松山病院だった昭和41年に四国地方がんセンターを併設し、54年に国立病院四国がんセンターに名称変更しました。私が着任したのは62年の10月です。
国立病院は平成16年に独立行政法人化しましたが、その2年後に今の新病院に移転してきました。翌年には都道府県のがん診療連携拠点病院に指定されて、5月には初めて病院機能評価のバージョン5を受けて一発合格。
平成21年にはDPCを導入したり電子カルテへ移行したりと、嵐が吹き荒れたようにハードな毎日を過ごしました。
患者数は外来が500人前後で、新病院に移転した当初に比べると1・5倍ほどに増えています。
小さな組織から徐々に大きくなってきたからか、院内では横のつながりが自然と確立されているように思えます。それは私が着任したころから変わりません。
みんな一緒に育ってきているから、大きな組織になっても昔からのアットホームな雰囲気がずっと変わらないのです。例えば、外科手術の最中に婦人科の病気が見つかった場合は、すぐに専門医を呼びますし、呼ばれた医師はすぐにかけつけます。
そういったフットワークの軽さは自慢なんです。四国という穏やかな土地柄が、スタッフの人格を育てているのかもしれません。
増え続ける患者さんに、より満足していただける医療を提供するためには、院内だけではなく、地域で連携をしていかなければなりません。
その思いから、平成23年9月に地域診療連携研修センター、25年6月には患者・家族総合支援センターを開設しました。
平成19年4月に施行された「がん対策基本法」を受けて、愛媛県では「愛媛県がん対策ネットワーク」を作り、さまざまな研修会を行ってきました。その中で、地域連携が成立するための要件として、「患者の意向をふまえる」ということが挙げられました。
中でも、NPO法人「愛媛がんサポートおれんじの会」からいただいた要望に「治療初期に連携を含むオーバービューの掲示をしてもらいたい」、「治療のメリット・デメリットを両方話してほしい」、「受け入れ先医療機関は何が出来て何が出来ないか」、「設備、スタッフ、検査機器、医師についての情報がほしい」などがありました。
これが、患者さんとしては関心のあるところなのです。これを頭に入れて連携を進めていますが、医師は自分で責任を持って患者さんを診たいという気持ちがあり、患者さんもまた担当医や病院が変わることに不安があるので、これらの問題を解消していかにスムーズに連携できるかが課題です。
そこで当院では、地域医療連携研修センターを建てました。私や副院長、事務部長、看護部長・副部長なども参加して、地域の医療機関向けに研修会を開いています。具体的には、症例を提示しながら、これを連携に持っていくにはどうしたらいいか、という課題を掲げ、グループワークをやりながら進めています。
がん地域連携パスの稼働としては、肺癌が一番多く、平成25年度の5カ月間で52例の実績をあげています。
歯科連携については、今年の2月から始めたばかりですがほとんどの方が受診をしています。
地域連携で一番大切なことは、循環器などに基礎疾患を持っている方が多い現代において、普段は地域の診療所で高血圧や高脂血症などを診てもらいながら、癌に関連した異変があれば、すぐに当院につなげられる仕組みづくりです。話を聞くと、患者さんによっては大病院主義というのがまだまだあるようです。地域の診療所が厚い信頼を得るためにも、地域診療連携研修センターの役目は大きいと思います。
地域連携研修センターの隣りには、患者・家族総合支援センター「暖だん」を開設しています。「だんだん」とは南予の方言で「ありがとう」という意味です。「癌になっても安心して暮らしていける愛媛」を目指して建てられました。
棟内には、憩いの広場、図書コーナー、ウィッグの試用コーナー、乳癌の術後の変形に対応する装具を装着できるコーナーなどもあります。
また、定期的にハローワークの方にお越しいただいて就労支援を行っています。当センターは、全国の就労支援モデルのうちの一つです。これまでにハード面が充実してきたので、これからはソフト面、つまり研修のほうに力を入れて、地域連携の成果を出していきたいと思います。
ほかに地域連携を推進するファシリテーターを養成するための研修会を、県内の医師や看護師、事務職に対して開いています。
いざ開催してみると、関西など県外からも多くの方が来られました。皆さん関心があるんですね。(聞き手と写真=山下)