医療と法律問題|九州合同法律事務所 弁護士 小林 洋二

  • はてなブックマークに追加
  • Google Bookmarks に追加
  • Yahoo!ブックマークに登録
  • del.icio.us に登録
  • ライブドアクリップに追加
  • RSS
  • この記事についてTwitterでつぶやく

医療事故と法律(5)

 医療事故調査制度創設を含む医療法改正案は、当初、この秋の臨時国会への提出が予定されていましたが、特定秘密保護法案等の重要案件に押されてということでしょうか、来年の通常国会まわしになったようです。

 前号で書いたとおり、私は、現在の医師法二一条は改正すべきだと考えています。診療関連死を、一般の「異状死」と同じように扱って、警察への届出を義務付ける必要はない、というのが私の考えです。

 そもそも私は、医療事故に対して、刑事処罰をもって臨むのは、多くの場合、弊害が大きいと考えています。

 刑事責任の本質についてはいろいろ学説があるのですが、いずれにせよ、基本的には個人の責任を問うものです。これに対して、今日の医療は、多くの場合、医師をはじめとする多職種によるチームによって行われています。チーム医療の中で事故が発生し、被害が顕在化するに至る過程には、多くのスタッフが、そして様々な要因が絡みます。

 この過程を全て整理し、その中から責任を追及されるべき個人を被疑者として特定するのは極めて困難な作業であり、被疑者とそれ以外の人との線引きは、医療現場に不公平感を生むことも珍しくありません。このような刑事責任追及に対応するため、医療施設内での原因究明作業が、犯人探しや責任のなすりつけあいの様相を呈し、結果的には施設内での立場が弱い人が槍玉にあげられるといったことも耳にします。

 また、刑事裁判は「疑わしきは罰せず」が鉄則ですが、過失と死亡との因果関係が争われている医療事故で、検察側が合理的な疑いを入れない程度までその因果関係を立証することは容易ではありません。有罪率九九・八%を誇る日本の刑事裁判の中で、医療事故に関しては、無罪判決が珍しくないのです。わたしの印象では、有罪事件のほとんどは自白事件であって、医師が真剣に無罪を主張して争ったにもかかわらず、有罪になった業務上過失致死事件はあまり多くないのではないでしょうか。もちろん「疑わしきは罰せず」の鉄則は貫かれるべきです。しかし、自白したら有罪、否認したら無罪、という程度の捜査能力で刑事介入が行われるようでは、「否認した者勝ち」といういわばモラルハザードを引き起こしかねません。これは、医療事故の再発防止にも、医療事故被害の適切な救済にも、はかりしれないマイナスです。しかし、だからといって、医療事故を一律に刑事処罰の対象から外すべきだという類の極論には、私は与することはできません。

 医療関係者の中には、「外国は医療事故を刑事処罰の対象にはしない、そんなことをするのは日本だけだ」という方もおられますが、それは何かの誤解だと思います。私の知る限り、そのような法制度を採っている国はありません。少なくとも先進国においては、過失で人を死なせてしまえば、法律上、刑事罰の対象になります。

の誤解だと思います。私の知る限り、そのような法制度を採っている国はありません。少なくとも先進国においては、過失で人を死なせてしまえば、法律上、刑事罰の対象になります。

 何ごとでもそうですが、要は、バランスの問題なのです。


九州医事新報社ではライター(編集職)を募集しています

九州初の地下鉄駅直結タワー|Brillia Tower西新 来場予約受付中

九州医事新報社ブログ

読者アンケートにご協力ください

バングラデシュに看護学校を建てるプロジェクト

人体にも環境にも優しい天然素材で作られた枕で快適な眠りを。100%天然素材のラテックス枕NEMCA

暮らし継がれる家|三井ホーム

一般社団法人メディワーククリエイト

日本赤十字社

全国骨髄バンク推進連絡協議会

今月の1冊

編集担当者が毎月オススメの書籍を紹介していくコーナーです。

【今月の1冊, 今月の一冊】
イメージ:今月の1冊 - 88. AI vs. 教科書が読めない 子どもたち

Twitter


ページ上部へ戻る