黒字転換から1年

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独立行政法人国立病院機構 指宿医療センター 病院長 田中康博

1978 鹿児島県立鶴丸高等学校卒 1983 鹿児島大学卒 鹿児島大学医学部附属病院第二内科入局 1991 ワシントン大学メディカルセンター留学 1996 鹿児島大学医学部附属病院第二内科助手 2003 鹿児島大学医学部附属病院兼任講師 2007 指宿病院診療部長 2009 同病院長 2013 指宿医療センター病院長

 昭和14年、指宿に傷痍軍人鹿児島療養所が創設された。戦後厚生省へ移管され、国立療養所となり、昭和43年から国立病院になっている。指宿駅から池田湖行きのバスに乗り、「国立病院前バス停留所」で降りれば、そこはすでに敷地内だ。何度も経営の立て直しに失敗した病院で、以前は国立病院機構146病院の中で143番目の経営状況だった。国立病院機構が立て直しに期待して任命した院長は、現院長で2人目。

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―以前取材した時は指宿病院でしたね。

 今年5月から「指宿医療センター」に改めました。以前の名称は地域に親しまれていましたが、同時に救急を得意としなかったイメージもあります。当院は平成19年から救急中心の病院になりましたし、地域の中核病院として、職員の士気を向上させるためにも、病院名を変更したほうが良いだろうと考えたんです。職員にアンケートを取っても、病院名を変えたいという回答が多かったんですよ。

 通常、病院名の変更は、年度の変わる4月にするべきですが、年度の出費を考えて5月に変更しました。年度末出費には気を使うんですよ。

―先ほど江口事務長とお会いしましたが、今日は敷地内の草刈りをされていました。

 これが現状です。こういう厳しい立地条件の病院が黒字に転換するには、楽をしていては難しい。私も今日は当直です。当直は現場を知る意味でもやった方が良いと考えています。

 当院は以前、毎年5億の赤字がありました。赤字を減らすことは簡単ですが、黒字にするには努力が必要です。それを継続するのはもっと大変です。6年かかりましたが、職員の頑張りには感謝しています。

 国立病院機構の九州ブロック会議でも、指宿病院が黒字になるのは無理だと考えられていたようですが、私は貧乏クジを引かされたとは思いませんでした。指宿の医療を守りたい気持ちがあったからです。みんなで病院に合った努力をしていたら、医師会の先生方が応援してくださり、県の補助も受けられて、黒字になりました。

 ですが限界を感じているのも事実です。指宿は超高齢化と過疎化が進んでいます。国際医療福祉大学の高橋泰教授が出した推定では、今後の医療必要度は下がり、介護必要度は上がるだろうというデータが出ています。

時代に合わせて今後も病院を変えていかねばならないでしょう。現在は270の許認可病床ですが、そろそろ200床ぐらいが適切かも知れません。すべて一般で行くのか、療養を入れるのか、今後時代に合わせて柔軟に判断していきます。病院の再生は、結局は住民と一体となった町おこしが必要なんだと感じています。都市部とは手法が全然違います。

 当院ではこれからの日本の先行医療を行なっているつもりでいます。日本全国が超高齢化した時、参考になる指宿モデルができていたら良いなと思います。

―出前講座を熱心にされていますね。

 私が院長になってから始めました。病院の立て直しには、医療だけでなく広報活動も大事です。「地域住民に当院をいかにアピールするか」と考えた時、手法の一つとして良いアプローチだと考えています。

 講演料はもちろんもらわず、呼ばれれば適した人が出向いて話してきます。医師だけでなく、看護師や理学療法士が行くこともあります。私が行くこともありますよ。

 最近やっと地域の中核病院として認知していただけるようになってきました。

 地域の声を聞くのも非常に大事ですから、良い機会でもあります。私は院内の意見箱に入れられた投書も、全部読んでいますよ。

―指宿市医師会との関係はどうですか。

 医師会の理事をしており、もう5年目です。当院では2次救急(救急搬入)を月平均80件ほど診ているんですが、医師会のかかりつけ医の先生や輪番医の先生が時間外の患者さんを診てくれているので、非常に助かっています。指宿で開業される先生には「自分の患者は何時でも診る」という、古き良き時代の考え方が残っているようで、ありがたいですね。

 こういう過疎地の病院は、機械を入れても費用対効果が悪いですが性能の悪い機械を入れるわけにはいきません。国立病院機構本部に談判して64列のCTを買うための資金は借りました。しかし、CTだけでは不十分です。地域医療再建のため、県庁にも足しげく通っていますが、県への働きかけに、指宿市医師会と県医師会が協力してくれています。今年は新しい機械を購入予定ですが、MRIには6千万、RIに1千万の補助金が降ります。これも医師会の協力のおかげです。

―県の補助で心カテ治療も開始したそうですね。

 実際の運用は1月からですが、県から1億3千万円の補助金をもらい、去年の12月20日から治療と検査を始めました。9月末までで200件以上の治療を行なっていて、そのうちの50件くらいが冠動脈形成術です。

 当院は循環器内科の医師が私を含めて常勤4名と、比較的充実しています。鹿島克郎統括診療部長は日本心血管インターベンション治療学会の指導医で、心カテの専門家なんですよ。

 多い少ないは別として、今までは鹿児島市内まで行って治療しなければならなかった検査・治療が、地元でできるようになったということには意味があると思います。近いようですが、鹿児島までは1車線の道が多く、救急車でも1時間半かかることがあります。急性心筋梗塞には時間がかかり過ぎます。

 ヘリを使えば10分から15分ですが、夜はまったく飛べません。鹿児島県はドクターヘリで昼間は救急に強い地域になりましたが、夜全く救急が診れない地域になってしまうのは良くありません。私はヘリコプターを使った中央集中型救急と、地域完結型救急の双方が必要だと考えています。当院の場合は今後指宿だけでなく南薩地域をカバーするつもりでやっていくつもりです。当院には小児科が少ないので、医師全員がある程度、小児救急を診てくれています。

 救急車が5回以上受け入れ先を探した件数は、一昨年指宿市では3です。私は「3件もあるのか」と思いましたが、近隣の地域では40件くらいありますから、極端に少ない数字です。去年の指宿市で5回以上の問い合せは、整形外科の患者さんが1件あっただけでした。当院と地域の医師で絶対に救急隊を迷わせないように努力しています。

―今後の展望などお聞かせください。

 産科小児科が弱いと、地域はますます衰退していきますから、成育医療に力を入れます。現在産婦人科は、年間250件のお産がありますが、常勤は1名です。小児科は常勤1名のほか、前院長の熊本俊則名誉院長に来ていただいています。今は医師が足りない状態なので、確保に力を入れています。来年の4月からは1人ずつ増える予定です。

 癌の治療や救急にも、もっと力を入れたいですね。少し人が増える予定がありますが、可能ならもっと増やしたいです。鹿児島は脳卒中や脳梗塞が多い地域ですが、この地域は特に多いんです。脳血管の専門医を充実させ、少しでも役に立つ病院をめざしたいものです。(聞き手と写真=平増)


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