病院の役割の視野さらに広げて

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国立病院機構 都城病院 院長 井口 厚司

1976 鹿児島大学卒 泌尿器科研修医1977 九州大学泌尿器科研修医 1978 県立宮崎病院泌尿器科 1979 九州厚生年金病院泌尿器科 以降、九州大学医学部泌尿器科助手、佐賀医科大学泌尿器科助教授 1996 国立病院九州医療センター泌尿器科医長 2012 同副院長 2013 国立病院機構都城病院院長 現在に至る。

 4月からここの院長になったという。それまでは九州医療センターに17年いた。福岡とはずいぶん医療環境が異なる中で、都城に自分の経験がどう役に立つだろうかと、医療者の目で地域を見つめ、考える日が続く。

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かなりの酒豪だという。若い時は一升、今でも焼酎五合くらいは平気だそうだ。

 僕は鹿児島大学出身ですから、南九州にまったく縁がないというわけではないんですよ。

 大学を卒業して泌尿器科で1年間研修しながら、都城にも月に1、2回来ていました。都城は島津の発祥で言葉も鹿児島だし、本場の芋焼酎もありますから、そんなに違和感はないんだけど、前にいた職場が九州医療センター(福岡市中央区)ですから、こっちに来て違うのは医師確保の苦労ですよね。

 看護師については看護学校を持っているし、こちらの人は地元志向が強いですから、看護師で困ることはないようです。

 しかもこの病院は明治42年に陸軍の衛戍病院として建ち、国立都城病院になってからも67年が過ぎています。伝統がある土地に、伝統ある病院と看護学校ですから、地元の信頼が厚いのを感じますね。

 宮崎県を東西南北に分けると、県北の基幹となる病院が県立延岡病院です。東側の県央に宮崎大学と県立宮崎病院があり、南は県立日南病院があります。ところが西側の都城地区には県立病院がないんですよ。そこで医師会病院と国立の都城病院が、地域医療支援病院として地域の人たちに頼られている状況があります。

 宮崎大学も県の医療を支えていくんだという非常にしっかりした考え方があり、最近は地域に若い医師を残そうという動きも強まってはいるのですが、大学に医師派遣をお願いする立場の我々からすれば、まだ不自由な面があります。宮崎大学医学部附属病院の池ノ上院長が中心となって、少なくとも救急と周産期のネットワークは大学がまとめようとしています。でも一部の診療科では現在も他県の大学から医師を派遣していただいて、それで病院の主要な機能・地域の医療を何とか維持できている状況もあって、そのあたりは苦労しているところです。

―地域住民に医療への不満はないんですか。

 質の高い医療をうけられればいいわけですから、その地域に有能な医師がどっしり腰を据え、そこに若手の医師が指導を受けるために集まってくるような医療が大事でしょうね。1年ごとに医師が交代するようでは、質の高い医療はなかなか難しいかもしれません。

 この地区にはすべての機能を持っている病院がないんです。うちでも拠点病院としてのがん診療や周産期、小児の診療は充実しているけど、それ以外の、脳とか循環というのは、なかなか十分にはできていない。

 前任者の小柳左門院長(現原土井病院院長=福岡市)が8年間ここで医師集めに苦労されたと思うのですが、307床ぐらいの病院ですべての機能を持とうというのは、なかなか難しいわけですよね。

 ではどうするかですが、病院同士が機能の面で互いに助け合い補完し合うことが必要だろうと思います。4キロとか6キロとか、それくらいの距離の病院が情報を共有して、足りない部分を埋め合いながらやっていくような、地域完結型の医療にせざるを得ないと思います。

 実際、この地域で診ることの出来ない患者は救急車やドクターヘリで宮崎大学に搬送するというようなネットワークがうまくいっており、これはいろんな機能を持つ病院が乱立・競合する福岡県よりも進んでいるかもしれませんね。

 先ほどの話に戻りますと、病診連携は分かりやすくうまくいきやすい。ところが基幹病院同士の連携は機能が重複する場合があります。A病院にもB病院にも整形外科がある、というようなことになれば、競合関係になりやすい。でもそこを通りこさなければ、病院同士の連携はできません。

 こっちから、循環器の緊急治療が必要な患者をむこうで診てもらう時には情報も全部渡し、むこうの肺癌の患者をうちが見る時もすべての情報を送ってもらうというようなやりとりの場合に、一枚の診療情報提供書では情報が不十分なことも少なくありません。これからの高度の医療では、より密度の高い情報の提供や共有が必要です。また、整形外科の大腿骨頸部骨折パスのように、その地域の急性期病院、回復期病院が一堂に集まって共通の地域連携クリティカルパスを作って運用していくといった地域一体型の連携、そのような形になるのが理想だろうと思いますね。

 医師会長とも話をしたのですが、お互いが現場現場で、あるいは実務者レベルで頻繁に話し合う機会をもってやっていくことになるのでしょうか。むこうが大体200床でこちらが300床だから、500床の病院があると思えばいいわけですよね。

―大きな病院の内部連携のイメージでしょうか。

 そうです。具体的に病院連携でお互いが正確に患者の情報を伝え合うには、電子化が一番いいでしょうね。今は難しいけど、理想はそういった連携なんでしょう。

 これからは電子カルテで情報を共有して、病院間でやり取りする形になるかもしれません。たとえば国立病院機構は144病院ありますが、電子カルテのメーカーがそれぞれ違いますから、共通の言語でやり取り出来るシステムを作ろうという話はあります。機構病院だけじゃなくて他の病院も同じで、北海道とやり取りをしようと思えば出来るようになるわけです。

 これは薬にも応用できて、いろんな院外薬局で処方されている薬をネットワークで確認できれば効率的ですし、災害が起こった時にも非常に役に立つことになります。

 今はカードの時代で、カードの中に最低限の情報が入っていればすごく効率のいい医療が出来るでしょうね。場合によってはリビングウィルも入れておくと、自分の意志が明確にされるという意見もあります。正確に情報が伝わって連携が進めば、病院や医療スタッフが少ない地域にはいっそう役立つと思います。

―こういうことは誰からスタートするんですか。

 最初はトップダウンでしょうね。トップ同士で話し合って、一つひとつは実務者レベルでやっていくような感じ。実務者が集まって具体的な話をして、情報の共有や受け渡しについてはもう少し上のレベルの、少しコンピューターに詳しい人の力を借りることができれば一番いいんでしょうね。

 そのあたりを目指して、医師会の先生方と「地域連携の会」みたいなものを年に3、4回でもいいから開ければと思っています。そのような場で日常診療のことを話し合ったりしてお互い顔を知るのはすごく大事なことですよね。連携はface toface ですから、この病院もそれを手がけていければいいかなと思いますけどね。

―そのために現場のやる気はどうなんでしょう

 ここのモチベーションは高いですよ。だからそれぞれの部署で頑張っていますので、院長はそれをまとめる必要があるんです。そういう意味では、ここはまだ病院機能評価を受けてないんですよ。だから来月の始めにキックオフをやって、それを目標に病院一同で一丸となってやっていこうということにしています。

 この病院に勤めているドクターもスタッフも本当によく頑張りますよ、びっくりするぐらいですね。それが地域の信頼の厚さの裏付けになっているんです。

―癌の拠点病院として、どんな考えがありますか。

 癌の末期になりますと、在宅ケアをしてくれるドクターや、それを支える訪問看護がしっかりしてくると、終末期を病院ではなく家でずっと看ることも出来ます。そのことを、急性期病院に勤めている看護師や医師は、まだまだ認識が低いわけです。こんなに手を取るのに、家族もほとんどいないような、奥さんと娘さんだけの家で介護するなんてとても出来ないだろういうふうにみんな思うんです。ですから仕方なくホスピスなんですよ。ところが実際には、それを在宅でやれたという例が結構あるんですよ、最近は。

―何が一番大事ですか。

 それを支える医師や看護師、あるいは訪問看護ステーションとか、そういった人たちです。でも福岡にもまだまだそう多くなくて、前任地の九州医療センターでもようやく二ノ坂先生(にのさかクリニック院長)をはじめ、いろんな職種の人たちに集まってもらって、1つの症例を掘り下げる検討会を始めたばかりです。我々の認識では、こんな患者に在宅は絶対無理だよねと尻込みしていたのに、在宅での事実を聞くと、エッ?てみんなびっくりでした。

 この地域でもあんなふうにやれば、在宅看取りが少し増えるかもしれないというふうに考えています。あとはそれを支える家族の意識と、在宅医師やスタッフたちがどれぐらい充実してくるかですよね。やっぱり病院よりも、住みなれた自分の家で死にたいなって自分では思いますよね。


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