医師不足解消には女医が連続して働ける勤務体系が必要
独立行政法人労働者健康福祉機構 九州労災病院 糸満盛憲院長
糸満院長へのインタビューは昨年7月20日号に続いて2度目。前回は病院の歴史と病院運営を聞いた。今回は骨粗鬆症とロコモ、加えて、若い医師への助言と医師不足の解決案などについても話してもらった。
高齢者の骨折を少なくするには、転倒を防止しなければいけません。
転倒しやすい理由は、高齢化で身体能力が衰えて足が上がらずに、座布団や敷居に引っかけて転んだり、脳梗塞や関節の痛みなどで動きが不自由になっていることが上げられます。それと、高齢者は夜眠れないから安定剤みたいなものを飲んで、それが反射神経を抑制してしまいます。
若い人なら平気でも、骨塩量が減って強度が落ちて骨粗鬆症になっていますから、屋内で倒れただけで折れることもありますね。
―「家の中には危険がいっぱい」ということですか。
特に女性は、閉経で卵巣ホルモンが出なくなって急に骨粗鬆症が進みますから、大腿骨近位部骨折は男性よりもずっと多いです。
それを防止するには骨量減少症が骨粗鬆症になる前に薬を飲んで骨塩量を保っておくことです。今は非常にいい薬がたくさん出ています。でも骨粗鬆症は無症状なだけに、骨折した時は痛いから飲むんですが、一年もしないうちに半分くらいの人が薬を飲むのをやめてしまうんです。
加齢と共に背中が丸くなって背丈が縮んでくるのは、脊椎が自然に無痛性の圧迫骨折をたくさん起こしているからで、自分は骨粗鬆症が進んでいるという自覚が必要です。
これからロコモ(ロコモティブシンドローム=運動器症候群)という言葉を耳にすることが増えると思います。
いま女性の平均寿命が86歳を超え、男性も80に届こうとしていますが、健康寿命はそれより10年くらい短いんですよ。最後の10年は、何らかの運動器の障害を持って生きているんです。それを短くして、健康寿命を延ばしていこうというのがロコモのキャンペーンなんですよ。厚労省の「健康日本21」にも取り入れられました。
当院は地域医療支援病院として役割は大きいです。特にお年寄りの大腿骨近位部骨折は、上肢の骨折に比べて、いったん骨折したらなかなか起きられなくなりますから、一日も早く手術をして、回復リハビリテーションを持っている病院でリハをして帰っていただく。そのシステムが北九州にはあるんです。「大腿骨近位部骨折地域連携パス」と言いまして、私が委員長をやって、事務局は産業医科大学のリハ科に置き、北九州リハ医会という定期的な会合を開いています。すでに23回目となり、次回(6月6日=ウェルとばた)は、脳卒中と大腿骨近位部骨折の地域連携パス協議会を行ない、そのあとリハ医会として、教育講演やシンポジウムを開くプログラムです。総勢100人くらい集まる予定です。
―周防正行監督の「終の信託」に、こちらの旧病院を使って撮影した場面があるそうですね。
残念ながらこの病院ではありませんが、試写会には招待されましたよ。ゲストで主演女優の草刈民代さんが来られました。深い問いかけの、考えさせられる映画でした。
―最近の若い医師をどう思いますか。
最近ドクターになりたての人の中には、向上心の強い人と、自分のQOL(生活の質)を大事にする人と、二極化しているような感じがします。
自分のQOLを優先する人は、給料のいいところで、9時5時で、当直がほとんどなくて、そこそこ都会地で、というふうな生活を求める人が多いですね。二極化はあまりいいことではないと思いますが、今の新臨床研修システムが始まって、特に顕在化しています。
楽な研修先を選び、そのあとどうするかと言うと、東京などで増えているそうですが、特定の持ち場を持たずにあちこちの病院と契約して、アルバイトで一定時間だけ働くような生活をしているんです。そういう医師にはもう少し自覚を持ってほしい。一人前になるまで最低でも10年かかるわけですから、それくらいの間は熱心に勉強してほしいですね。
若い人たちへの助言として、初期研修の段階で、症例数も豊富でドクターの数も多い、しっかりした病院で研修を受けるべきだと思います。医者は社会的に大切にされますから、若いころに苦労から逃げていたら、そのうち自分は偉いと勘違いして、つい天狗になってしまう。医師になって10年目くらいにそうなることがありますね。
私もある年齢でその危険性に気がつき、傲慢になる気持ちを排除するよう努めてきました。
―医師不足が言われています。
女医が増えているのに、結婚や出産で辞めていく人が少なくありません。女医が安心して働ける体制が、充分に出来ていないことが挙げられます。女医の要望に応じて、変則的でもいいから継続して働ける勤務体系を作らなければ、家庭から女医を引っ張り出すことは出来ないと思います。今の医療は日進月歩ですから、いったん現場を離れると、知識も技術もだんだん古くなって、戻れるんだろうかという気持ちが出てきますからね。国の制度として作り、運用はそれぞれの病院が工夫できるようにすればいいと思います。