リンパ球バンク㈱代表取締役社長 藤井真則
iPS細胞が注目され、ブームの様相を呈し、再生医療促進法が国会で成立するなど、国を挙げての取り組みとなってきました。
ところが、再生医療分野の多くの技術は、まだ研究の緒についた段階で、実際に、どこまで患者さんにとって有益なものかは、これから検証することになります。
一方、がん治療として実施される免疫細胞療法は、再生医療とはまったく異なるものです。
iPS細胞は遺伝子操作を伴うためがん化リスクがありますが、免疫細胞療法は、体内に存在する分化が進んだ細胞をそのまま活性化し、増殖させるもので、原理的に安全です。また、何より、長い使用実績がありますので、人体に投与した際、何が起こるのか、安全管理手法や使用する機材、容器、薬剤など、徹底した検証がなされています。当初は細胞培養センターまで患者が移動していましたが、患者を長距離移動させるより細胞を運ぶべきとの要求に応え、細胞の保管や輸送システムも確立されてきました。
1970年にはT細胞を用いる臨床試験が開始され、1973年に樹状細胞療法が始まりました。さらに、これらの細胞より、もっと強い細胞が存在すると考えられ、1975年、T細胞や樹状細胞よりもはるかにがん細胞傷害活性が高いナチュラルキラー(NK) 細胞が発見されます。
1980年代には米国政府主導による大規模臨床試験が実施され、「患者体内の免疫抑制の影響を受けない体外培養で十分に活性化されたNK細胞を、十分な数をそろえて体内に戻し、さらに体内の免疫抑制を弱める措置を施せば、標準治療が奏効しない進行がん患者に対し顕著な効果を示すことがある」ことが確認されています。また、樹状細胞単独では奏効しませんでしたが、NK細胞やT細胞を混合した「プロベンジ」という免疫細胞療法が、米国FDAの承認を取得しています。
日本国内では、米国法より治療強度を極端に弱めたものが普及し、がんを攻撃するというより、若干の延命やQOL改善を目的としたため、「免疫細胞療法は安全だが、弱い」というイメージが広がってしまいました。
1990年代、京都大学の研究者二人が、培養が難しいとされてきたNK細胞の活性を高め、かつ同時に増殖させるANK活性化自己リンパ球移入法を開発します。
1クール100億個前後のNK細胞を、12回に分け、週2回ずつ点滴で体内に戻す。米国法を上回る「攻撃力」を分散投与することで、副作用を抑え、安全に免疫抑制を弱めていく治療法を確立しました。
体内に戻された高活性NK細胞は、大量のサイトカインを放出するため、結果として、40度前後の発熱を伴います。