もっと!日本発のエビデンスを!

  • はてなブックマークに追加
  • Google Bookmarks に追加
  • Yahoo!ブックマークに登録
  • del.icio.us に登録
  • ライブドアクリップに追加
  • RSS
  • この記事についてTwitterでつぶやく

―6月に博多で開かれる第58回日本透析医学会学術集会・総会の大会長として、何を主眼とし、どうなれば成功なのかをお聞かせください―

第58回日本透析医学会で大会長を務める 福岡赤十字病院の平方秀樹副院長

20.jpg

今回、13年ぶりに福岡で日本透析医学会を主宰させていただきます。学会のテーマを「全人力、科学力、透析力、フォア・ザ・ピープル」と掲げました。透析患者さんに対して、科学力をベースに、わが国が世界に誇る透析技術を適用する。治療に際しては、患者さんの全体を見渡す全人的な視点を忘れてはならないというテーマです。

学会への人気も高いようで、いま(1月25日現在)、3600以上の演題が集まっています。今度の学会を契機に、日本からの新たなエビデンスが発信されれば、それで成功です。Evidence - based medicine(エビデンス・ベーズド・メディスン)、科学的根拠に基づく医療、を推進する一助になればいいと思います。腎臓内科学に関しても、透析医学に関してもエビデンスが少ないのが悩みの種です。我々は多くの診療ガイドラインを発表してきましたが、それを作成するときに痛感するのはわが国発のエビデンスが少ないということです。今度の学会がエビデンス発信に拍車をかけるきっかけを作ってくれたらと期待しています。

さて、腎臓内科分野で、この10年間で特筆すべきは、2002年に米国から提唱されて、瞬く間に全世界にひろがった慢性腎臓病(chronic kidneydisease=CKD)という疾患概念です。CKD運動という啓発運動が世界で進められてきました。毎年3月の第2木曜日を世界腎臓デーと銘打って、世界同時のキャンペーンも行われます。

では、CKDとは。

腎臓病は、昔は、腎炎やネフローゼ症候群など、ある特定の疾患を指していました。これらの病気では、タンパク尿が出て、体がむくみ、腎機能が悪くなるとやがて尿毒症になって亡くなる病気と理解されていました。この30年間で、尿毒症と末期腎不全になっても透析療法によって命を永らえることが可能になりました。幸いなことに、わが国の透析療法の治療成績は世界一で、患者さんたちも長生きできるようになり、今や全国で30万人を超える透析患者さんがいるという透析大国になっています。尿毒症の患者さんは増えています。実はその原因が問題なのです。21世紀、最大の問題は高齢化です。腎臓病の患者さんもどんどん高齢化しています。いや、高齢者の腎臓病が問題なんです。腎炎やネフローゼ症候群など特殊な病気ではなくて、高齢になると腎臓が悪くなります。また、最近増えている糖尿病も腎臓病をおこしてきます。

この2つがもっとも問題になっています。昨年の統計で、透析を新たに始める人(透析導入者)の年齢の中央値は75歳を超えました。一方、高齢者や糖尿病の方に慢性腎臓病が多い、これらの人々は透析に入る前に6割の人が心臓病や脳卒中を発症します。だから腎臓が悪いと言われたら、その原因に高血圧とか動脈硬化とか、代謝病や高脂血症などの病気も持っていないかどうか検査しなければなりません。腎臓に目を向けることで、循環器系の病気の早期予防や早期治療ができるのです。その窓口になるという意味でも、透析や慢性腎臓病に注目することが大事なんです。

―福岡赤十字病院の「CKD(慢性腎臓病)外来」はどんなことをするのでしょうか―

21.jpg

CKD外来を担当する看護師たちの現場に案内してもらったら、平方副院長の顔が満面の笑みになった。

一般的に、CKD外来では採血や検尿をして、腎臓がいいか悪いかを医師が判断して原因を探ります。そして、患者さんの指導をお医者さんが試みることになります.この指導、実は非常に難しいのです.まず、お医者さんが説明しても大多数の方は理解されてないと思います.先ずは理解してもらおうと、うちのCKD外来は看護師が担当します。というのは、お医者さんから「このままいけば透析になるばい」と言われるとドキッとするでしょ?「食事の蛋白質を減らしなさい」と言われて「ハイ」と良い返事はするんだけど解らない。そこから先を聞ききらないんです、聞けないのです。お医者さんに遠慮し、目の前も頭の中も真っ白です。でも、相手が看護師さんだったら聞きやすい。患者さんは看護師さんには本音をしゃべるんですよ。「どうも透析せないかんげな...」、「いえ、これから気をつけてということですよ」、「蛋白を減らさないかんげな...」、「だったら栄養士さんを紹介しましょうね」、「体重を減らせと言われた」、「食事のスケジュールを栄養士さんと作りましょう」みたいに、専任の看護師チームを配置した外来です。

今、検診でひっかかった人をかかりつけ医や一次病院と連携してCKD連携パス診療を始めています。心血管病の予防と早期発見そして、早期治療介入ができることです。血圧を下げます、心臓の異常や不整脈が疑われたら心臓の先生に診てもらい、動脈硬化症で血管に詰まっているところはないか、そういうこともCKD連携パス診療の大事な役目です。

―去年去年3月の市民公開講座で平方先生は、「CKDは予防できる」と繰り返し話されていました(2012年3月号にて掲載)―

歳をとると腎臓が悪くなる。なぜか? それは歳をとる経過で、動脈硬化症の進展とともに血管も老い、血管の塊とも言える腎臓も硬化してゆく。血液をろ過する糸球体という器官が硬化してゆく。糸球体の数は生まれつき、人それぞれに決まっていて、歳をとって硬化してゆくということは糸球体の数が減ってゆくことを意味しています。生まれたときに用意されていた糸球体の全部で体の中をきれいにしていたのに、その数が減ると、残った糸球体は少ない数で今までやってきた全部の仕事をしなくてはならない。非常な負担がかかることになります。この負担で、残っている糸球体に傷害が加わり、硬化し、そして、さらに糸球体の数が減ってゆく。やがて腎機能が目に見えて悪くなり、尿毒症へと進行してゆくことになります。これが慢性腎臓病の進行過程です。腎臓の仕事の中で大きい仕事は食事に由来する老廃物の排泄です。特に、タンパク質からの窒素は必ず排泄しなければなりません。タンパク質の摂取量は自分の腎臓が処理できる程度に留めるべきです.腎臓が悪いと言われたら必ず制限すべきなんです。腎臓の仕事量を減らして、残った糸球体がつぶれてゆくのを防がなければなりません。腎臓病では低タンパク食、これがその原理です。今、飽食の時代。全てを摂りすぎています。タンパク質だけでなく、塩、カロリー(脂肪)、...。食習慣、生活習慣の改善は腎臓病を予防することにつながります。

22.jpg

予防で大事なのは、先ず、今の自分を知ることです。検診を受けて下さい。検診で、検尿でタンパク尿の有無をチェックし、採血でクレアチニンという腎臓が調節している代謝産物の濃度を調べましょう.クレアチニンの値から腎機能が類推できます。特に、国保では50代や60代の働き盛りの方々の受診率が最も低いんです。仕事と生活に追われてね。

福岡市には「よかドック」という検診システムがあって、国保の人は安い費用で健診できます。九州医事新報さんもぜひ宣伝して、会社の健診でクレアチニンの検査をしてもらえるよう要求してください。クレアチニンが測れないと腎機能は解らないんです。福岡県では、国保検診の全部でクレアチニン検査を入れてもらってます。是非、検診を受けて下さい。先ず、自分を知る。自分の血圧を知る。クレアチニンを知る。腎機能を知る。そして、生活習慣はどうか?

どのような改善を加えなければならないか、それをご相談ください。

平方秀樹(ひらかた ひでき)
昭和26年 佐賀県唐津市生まれ。高校は佐賀西高校。一浪して九大医学部へ。
昭和51年 卒業。久山町研究の第二内科に入局。腎臓研究室へ配属。
昭和61年 米国留学。帰国後、九大病院で腎疾患の診療にあたる。
平成18年 福岡日赤へ。現在に至る。

九州医事新報社ではライター(編集職)を募集しています

九州初の地下鉄駅直結タワー|Brillia Tower西新 来場予約受付中

九州医事新報社ブログ

読者アンケートにご協力ください

バングラデシュに看護学校を建てるプロジェクト

人体にも環境にも優しい天然素材で作られた枕で快適な眠りを。100%天然素材のラテックス枕NEMCA

暮らし継がれる家|三井ホーム

一般社団法人メディワーククリエイト

日本赤十字社

全国骨髄バンク推進連絡協議会

今月の1冊

編集担当者が毎月オススメの書籍を紹介していくコーナーです。

【今月の1冊, 今月の一冊】
イメージ:今月の1冊 - 88. AI vs. 教科書が読めない 子どもたち

Twitter


ページ上部へ戻る