波多江伸子 木星舍(1600円+税)
この本は1人のがん患者の生活を伝えたものである。北九州市で法律事務所を開いていた41歳の弁護士、渡橋俊則さんの肺に異常が見つかってから亡くなるまでの1年余りが、死生学者でありボランティアでもある著者の目を通して記録されている。
この本はターミナル・ケア、特にホスピスでの生活や緩和ケアの実態を伝えたものであり、多くの人が何の疑問も持つことなく採用する「闘病」とは別の価値観を示している。どちらが正しいとか、優っているということではなく、選択肢をひとつ増やしてくれる。
病は不幸なことだ。そして人の死はいつも悲しい。だが、この本に記録された若いがん患者を、私は可哀想だとは思わない。素敵な時間を過ごした人物だと思うし、良い終わりを迎えたことに嬉しくもなる。そして、タイトルの由来となった楽曲を聴いてみたくなる。
人は生に執着する。少しでも長く生きたいと、死の淵まで思う。だから医師たちは、完治に至らぬまでも、命をわずかでも延ばそうと懸命に努力する。患者側も、つらくても困難に立ち向かう。
その両者の奮闘は美しい。「わずかな望みでも、それを承知で向かっていく」という精神に、人としての美しさを感じる。
翻って「生き方」ではなく、「死に方」という観点で考えた時はどうだろう。一分でも長く生きたいのと矛盾せずに、安らかな死を望む気持ちもまた、多くの人が持っている。親しい人々と愉しく過ごし、最後の挨拶を済ませ、なるべく悲しませないように旅立つ。苦しみや痛みは最小限に、喜びや楽しさは最大限に。
読み終えたあと、それを幾度となく思い起こさせてくれる本である。
― 本紙編集部 ―