【特別寄稿】着ぐるみを脱いで接客を

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稗田 尚 Hieda Hisashi

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テーマパークでポーズを決めている着ぐるみに抱きついたり、「ご当地ゆるキャラ」に身体を密着させて記念写真を撮っている女性をテレビで見るたびに、この人たちは見かけにだまされて生きているのだろうなと思う。あんな生き物はいない。あれは人間だ。正体不明の某(なにがし)かが中に入っている。

中の人の正体はうかがい知れないが、全身汗だくだろうし、おそらく、笑ってはいない。というより笑っていたら不気味だ。

着ぐるみを着た中の人が、どんな気持ちで抱きつかれているか、それを露ほども想像しないとは、危ないことこのうえない。

着ぐるみに抱きついていいのは幼少期までだろう。小学高学年でそれをやっていたら、その子の将来はおよそ察しがつく。もしも私の娘が諸手を広げて駆け寄ったら、私はあわてて止めるだろう。

―中に入っているのはどんな人間か―。そのような目で相手を見る能力を私たちはもっとやしなう必要がある。

ホテルのフロント、百貨店やショップの売り子、ファーストフード店のカウンター担当、最近は役場や病院の窓口まで、みな同じ角度で身体を前に傾け、口の両端を少し上に引き上げて感謝や笑いを演じるさまは、テーマパークの着ぐるみといっしょだ。

ロビーや店の入口で楽器でも奏でるなら意味もあるが、アトラクションのない場所での着ぐるみはちっとも心地よくないのである。

こういった状況を私は「着ぐるみの接客」、「カウンターを挟んだマナー」と呼び、時おりその中にどんな人間が入っているのかを確かめたくて、いきなり趣味や嗜好をたずねてみることがある。すると相手は奇妙な顔になり、ドン引きされることも少なくない。着ぐるみが通用しなくて困惑し、そわそわする彼らの姿は、落差が大きいだけに悲しい。

そんな戸惑う様子を見て、この人が仕事を終えて着ぐるみ(ユニフォームや接客マナー)を脱ぎ、普段の自分にもどった時、はたしてどんな個性が現われるのだろう、今のような慇懃(いんぎん)な物腰で、相手優先をつらぬけるのだろうかと思う。そしてたまに、待ってましたとばかりに本当の個性が相手から出てくることもあり、その時はとても話が弾む。

でもよくよく考えてみると、仕事を終えて着ぐるみを脱げるのはまだましで、人によっては自分を隠せる安心感、着ぐるみを演じる時の好評価を忘れられずに、着ぐるみのまま一生を過ごす人もいるかもしれない。着ぐるみでいる限り若い女性に抱きつかれるので、自宅でもその格好で過ごすのと同じである。

いわゆる「仮面が顔に張りついた状態」で、これを心理学ではペルソナ(自己の外的側面)とか言うらしい。こういった時の着ぐるみは、分厚くすればするほど自分を隠せ、相手と接している感覚を鈍らせることができる。そうやって自分の奥の方に引っ込んでしまっている人もいるだろう。

道行く人々に、地下鉄や電車の中で、本来の自分に戻った人や、なお着たままの人を幾人も見る。まさに人を見る宝庫である。そしてその人たちとの対比で、「私」という着ぐるみの中にいる本当の私を忘れたり、行方知れずになったりしないように、たまに意識しているのである。

皆さんは着ぐるみにだまされ、あるいは着ぐるみで自分を隠していないだろうか。


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