第20回日本乳癌学会学術総会
6月28日から30日までの3日間、熊本市の市民会館崇城大学、ホテル日航熊本、ホテルキャッスルなどで第20回日本乳癌学会学術総会が開かれ、会長の西村令喜熊本市民病院乳腺内分泌外科首席診療部長が「今大会は熊本市が政令指定都市となって初の大きなイベント。特別企画として臨床腫瘍学会との合同シンポジウムや、海外から著名な先生方をお招きしており、実り多い学術総会にしたい」と述べた。
市民公開講座に満員の400人
大会に先立ち24日にホテル熊本テルサで開かれた市民公開講座「家族で考える乳がん」は、患者や家族など400人が参加しホールを埋めた。
講座の主旨は「乳がん治療にいくらかかるか、気持ちの保ち方、家族の対応など、周辺のことを考える」(西村会長)
最初に熊本市民病院がん支援相談支援センターの緒方美穂看護師長が、「乳がん告知を受けると頭が真っ白になってしまうが、我に返ると金銭面のことが気になる。長期に及ぶ治療には想像以上に費用がかかるため、治療費で悩む患者が多い。手術や入院、ホルモン療法、化学療法、放射線治療などは相当高額で、50歳の女性の乳がんを例にとると、合計で213万円かかる。医療保険で本人負担額は1割から3割にとどまるが、3割だとおよそ70万円と依然として高額。そこで、高額療養費制度、医療費一部負担金減免制度などの利用相談はもちろん、休職中の生活面、税金などについても私たちに相談してほしい」と話した。
続いて大島彰九州がんセンターサイコオンコロジー科医長が、がん治療で心の医学・心の緩和ケアと呼ばれるサイコオンコロジー(精神腫瘍学)を説明。「女性にとって、乳がんの告知は大きな精神的衝撃をもたらす。心のケアを行なうことで生活・生き方の質を維持し、援助するのがサイコオンコロジー。不安や悩みは一人で抱え込まず、医療者や家族など周囲の人に話すことが大切で、程度が強い場合には心の専門家に相談し、カウンセリングやリラクゼーションに加え、適切な薬剤を併用することも必要」と述べた。
最後に独協医科大学公衆衛生学講座准教授の高橋都医師が講演し、「性生活は暮らしの大切な部分だが、乳がん患者が性の悩みを相談できる機会は極めて少ない。性行為で病気が進行することはないが、治療が性生活に及ぼす影響は医療者に聞く必要がある。もしつらいセックスを我慢しているのなら、何がどう苦痛なのかを、パートナーにしっかり伝え、コミュニケーションを大切にしてほしい」と語った。
聴講者は若い人から中高年の女性まで幅広く、総合司会の中野美奈子さんを双眼鏡で熱心に見ている40代の女性もいた。 (内藤)
=参加者とのQ&A=
- Q―乳がんになってからの精神的なケアの方法を知りたい。患者の立場で、乳がんを知った時の心のもち方、家族に対する対応の仕方などについても教えて下さい。
- A―「精神的につらい時は周囲とのコミュニケーションが必要だが、まわりが気を使い過ぎてギクシャクすることがある。そうならないように、事前に自分の病気の理解を得て生活してくことが大切」(大島医師)
「不安をできる限り少なくするには、自分も病気を勉強し、患者会やサロンなど、気持ちを吐き出せる場所を見つけることが救いになる。私は田舎に住んでいるので、山間の誰も住んでいない所で一週間泣き続けたら、何か吹っ切れた感がありました」(神田代表) - Q―普段の生活で乳がんになりやすいとか、なりにくいはありますか?
- 「閉経後は女性ホルモンが作られず、皮下脂肪の中で男性ホルモンが女性ホルモンに変換されるため、肥満で脂肪の多い女性は乳がんになりやすくなる。それをさけるには、適度な運度とバランスのとれた食事が必要」 (西村会長)
- Q―現在独身ですが、乳がんの治療後に出会ったパートナーにいつどのように病気のことを伝えれば良いのでしょうか。
- A―「いろいろな考え方がありますが、アメリカの『がん患者の幸せな性』という本では『相手があなたという人間全体を好きになってくれているとあなた自身が思った時』に伝えるべきとの回答があります。最初から治療歴を伝える必要は必ずしも必要ではありません。相手にも秘密があるかもしれませんから、お互いのコミュニケーションを大切にしてほしい」(高橋医師)