「海にはワニがいる」 ファビオ・ジェーダ(飯田亮介訳)
少年の夢はシンプルだ。「今よりいい暮らしをしたい」。それは本当に些細で、毎日きちんとした食事を取り、学校で学び、働けること、私たちが当たり前に行なっている、そんなことである。
アフガニスタンの内戦で、少年エナヤットの村は迫害の対象になった。彼の父は死に、学校は閉鎖された。エナヤットの身を案じた母は10歳の彼を隣国のパキスタンへ連れ出し、姿を消してしまう。それからエナヤットは安住の地を求め、8年の歳月をかけて5つの国境を越え、命をかけて自分の境遇を切り拓く。
語り口はとにかく淡々としており、自分の身に起きたことが静かに綴られている。それは想像も超える過酷な旅で、よく生きてこられたと思わずにはいられない。この静かな視点は、彼が生きてきた過程を考えればこうならざるを得なかったと思え、切なくなる。
多くの年端もいかない子どもがやむを得ず故郷を捨て、ただ働き、食べて、眠る場所を求め、命を懸けて国境を越えている。内乱や人種、難民問題の知識がほとんどなかった私でも世界の現状に無関心ではいられないと思えた。大人はもちろん、エナヤットと同世代の10歳から高校生までぜひすすめたい一冊である。
(紀伊國屋書店福岡本店=坂元)