「道化師の蝶」 円城塔 著
一部で物議を醸した第146回芥川賞受賞作。そもそも円城塔作品のあらすじを説明するのは難しく、それをうまく書くことができれば評論家になれるのではというのが、私の個人的な考え。
表題作はアイデアの奔流を掬い取る網目であり、その網目は言葉であり、その言葉、或いは言語を駆使して小説を書くという円城塔の本領が発揮された作品。「無活用ラテン語」、「友幸友幸」、「A・A・エイブラムス」という文字列を目にして、一体これは何を言っているのだろうと思う向きもあるだろうが、まずは素直に読み進めて、言語実験を楽しんで頂きたい。
併録された「松ノ枝の記」が、これまた素晴らしい。これだけで翻訳論として成立しているのではという感慨を抱かざるを得ない。何故か切なくなってしまうラストは必読だ。「二回読んで二回とも寝た」という発言が先行した感があるが、多くの人に読んで欲しい。
(紀伊國屋書店福岡本店=吉野達也)