がん細胞だけねらって破壊

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「重粒子線がん治療」の新たな拠点が、来年春、九州新幹線新鳥栖駅前に完成【九州初】

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にこやかに語る姿が印象的だった工藤センター長。「趣味は釣り。去年は7回くらい行ったかな。時間がなかなかとれないけどね」(1月6日)

がん組織に炭素粒子をぶつけて破壊する重粒子線治療施設「九州国際重粒子線がん治療センター」の建設が、2013年春の開設を目指して佐賀県鳥栖市で進んでいる。日本が世界をリードする最先端の治療法で、正常な細胞にダメージを与えず、日帰り治療も可能となる。国内では千葉、兵庫、群馬に次いで4ヵ所目の施設で、民間主体の運営は初めて。施設運営の要となる工藤 センター長(61=前佐賀大学医学部教授)に治療への期待や運営の見通しについて聞いた。

粒子線をがんの組織にぶつけて壊す治療は、すでに陽子線治療として、全国で7施設が稼働しており、新たに2施設の建設が計画されている。

鳥栖市に建設中の重粒子線治療センターは、陽子にくらべて大きな破壊力を持つ炭素粒子を使うのが特長。炭素粒子は陽子より重いため、治療に必要なエネルギーまで加速する技術の確立に年月を要したのだという。

この速度を生み出すシンクロトロン(加速器)は直径20㍍のドーナツ形状をしており、電磁石の応用で粒子を加速し、照射室にいる患者の患部に向けて照射する。3つの照射室にこれほど大きな建物が必要となるのはそのため=内部構造参照。

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上段は九州新幹線新鳥栖駅と建設中の九州国際重粒子線がん治療センター。下段上は完成予想図。下段下は施設の内部構造図。

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重粒子線がん治療の優れている点はX線治療に比べて周辺の正常細胞にダメージを与えず、がん組織だけを狙ってピンポイントで破壊すること=照射イメージ参照。効果が大きいためX線治療や陽子線治療に比べておおむね半分の照射回数でよく、1回の照射で治療が終わった例もあるという。また放射線抵抗性があり、治療がむつかしい骨軟部肉腫にも治療効果が期待できると工藤センター長は話す。

従来の「切らずに治す」放射線治療からさらに踏み込んで「治せなかったがんを治す」という時代が到来しつつあることを重粒子線治療は身近に感じさせてくれる。

「こういった技術が登場して普及しつつあるが、施設は兵庫より西にはなく、われわれ九州の放射線科医師も必要性をずっと感じていた。150億円の予算の多くを九州の経済界や医療界が協力してくれたからこそ、初の民間運営として出発することができた」。

九州新幹線新鳥栖駅前という交通の要衝としての立地も好条件で、九州一円はもとより広島や山口などからも新幹線で治療に通うことも可能となる。九州・山口地区はがんの死亡率が全国平均よりも高く、その点からも本施設の完成は意義が深いだけに、希望する患者をスムーズに治療する体制の整備が求められている。

一方、重粒子線を照射する際に病巣が動いてはいけないため、腸のように不規則に動く臓器のがんには不向きであることや(=治療の対象となるがん参照)、症状によって患者がじっとしていられない状況でも治療はむつかしく、さらには、広範な転移があったり、過去に放射線治療を受けているがんも治療の対象にはならない。イメージでいうと、この治療を受けられるのは「センターまで来ることができて、照射中は動かずにいられる人」ということになる。

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先進医療であるこの治療にかかる約300万円は公的医療保険は適用されないため、患者の全額負担になる(診察料や検査料は公的医療保険の対象)。ただ現在では、民間の保険会社から治療費をカバーする保険商品も数多く販売されている。

「近年、がんにはさまざまな治療方法が開発されており、重粒子線治療はその選択肢を広げてくれることになります」とセンター長は言う。この施設には入院設備はなく、地域の拠点病院やがんの専門病院から紹介されて治療を受けるという流れとなる。したがって検査も地域の拠点病院などで受けることになる。

「実際に患者さんが治療を決めるにあたっては、診察した医師の判断や患者さんの希望を総合的に勘案することになります」 今のところ、まずは九大病院や佐賀大病院、久留米大病院のほか、近隣のがん拠点病院との連携を進めていく考えだという。

センター長によると、この治療法への関心は高まってきており、企業や団体などが開催する講演会に講師として呼ばれることも多く、聴衆はどこも多いそうである。

最後に1人の医師としての感想を聞いてみると、「このような施設は九州に1つは必要だと10年くらい前から思っていたので、佐賀にどうかという話を聞いて、どんどんやればいいと思ったし、とても期待しています」との言葉が返ってきた。

【記者の目】
工藤センター長が研修医だった35年以上も前に「陽子をうまく当てれば体の特定のところで大きなエネルギーが出せる」という論文がすでに発表されており、その研究が米国ですでに始まっていたそうで、いずれそんな時代が来るだろうと思ったという。 日本の炭素粒子の研究も15年以上の期間を要し、シンクロトロンの設備もかつては直径40㍍もあったそうだ。実験段階から開発、そして実用から普及まで時間はかかるものだとセンター長は言うが、それにしても医師や技術者が病気に立ち向かう姿はすばらしいものがある。 強く願えばその通りになるという言葉があるが、だとすれば今の重粒子線でむつかしい治療もいずれ克服されるに違いない。先進技術の周辺にそんな希望を感じた。

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九州国際重粒子線がん治療センター
(サガハイマット SAGA HIMAT)の運営概要

【治療室】=3室(うち1室は将来拡張予定)
【年間あたりの受け入れ患者数】=800人
【運営スタッフ】=医師9人、医学物理士7人、診療放射線技師11人、看護師5人
【病床】=なし


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