平野隆三(九州医事新報顧問)
〔米国のもくろみ〕
日本のTPP参加で米国政府や大手民間保険会社が期待している「医療保険制度を含む医療の自由化」は、クリントン政権時代に、日本の医療保険制度を米国に導入しようとしたことがある。しかし保険業界の猛反発に遭って導入できなかった。そこで米国は、保険診療に自由診療を併用した混合診療を導入させようとした。
それを小泉内閣時代に「医療費を抑制する」との名目で、混合診療の解禁を打ち出したが、この時は日本医師会などの猛反発で実現しなかった。今も厚生労働省はこの混合診療を原則禁止にしているが、TPPに加入したことでどこまで抑止できるかである。
米国はこれを機に医療の自由化を図ろうとしており、自国の医療保険制度は素晴らしいと思い込んでいる米国の制度を、日本に売り込もうとする米国政府と、医療保障プランの導入化をもくろむ民間大手保険会社のねらいがここにある。導入目的達成のためにすべての規制という壁を取り払おうとしているのである。
〔日本と米国の医療保険制度〕
日本は原則として国民すべてが何らかの公的医療保険に加入している。「国民皆保険」といわれる所以であり、それを補うのが民間保険会社による疾病に係る医療保障である。保険の取り扱いの拡大を促してきた経緯はあったが、あくまでも公的医療保険の補助的な役割りなのだ。
それに対して米国は、公的医療保険と民間保険会社が提供する保険(医療保障プラン)の混合であり、それを補うのが公的医療保険であるとし、どちらを選ぶかは被保険者の選択による。診療費の出来高払い型は日本の公的保険と類似する。
〔日本医療業界の指針〕
TPPの論議はいろいろあるが、日本の医療業界自身が、恐れるばかりで示すべき方向性が見えていないのが現状だ。選択肢としてはイエスかノーのとちらかであり、グローバル的な感覚で打って出るなら、今までの「公的」という感覚を一新し、将来を見据えた改革に向けて、官主導型を打破しなければならない。そのうえで高度医療と医療技術の高さを売りに、市場原理主義の中で百戦錬磨の高級ホテル並み企業病院と、数々の大手保険会社とどう競合するかである。
ただしここで言う真の選者は、「健康で安心できる生活を最後まで送りたい」とする罹患予備軍、つまりわれわれ一般国民であり、今年は国民皆保険が開始されて50年という節目であることも忘れてはならないだろう。