=欧州眼形成学会に参加して=
鈴木亨(鈴木眼科クリニック院長)
実際、他の国の極細内視鏡(日本よりかなり重く太い)の発表もあり、そのビデオにはレーザーを使用するとみるみるレンズ糊が熱で劣化し、映像画質が落ちてくるものがあった。これではオートクレー部は無理である。ドイツ人のドクターの話では、オートクレーブを数回繰り返すと涙道内視鏡が見えなくなるので交換が必要とのことだった。
やはり糊の問題はどの国も解決できておらず、これが極細内視鏡の再生使用と流通を妨げていることに気がついた。ディスポで使用するなら、今のままで日本製内視鏡の画質は確かに世界一綺麗で、世界一細くて使い勝手もよいので、世界中で通用すると感じた。しかし内視鏡プローブは40万円する。極細内視鏡を用いた低侵襲手術は成績もよいが、手術収入は日本で2万円程度、各国でも涙道手術はお金にはならないのが共通のようだ。手術というものは入院させて時間をかけて大きく切ったほうが高いお金をもらえるのである。たった2万円の手術に40万円の内視鏡を使い捨てることが考えられるだろうか。1回38万円の赤字を作りながら数を重ねるなど、いくら内視鏡マニアでも到底考えられない。滅菌しながらの再生使用以外に最先端技術の粋である極細内視鏡に生きる道はない。今回のヨーロッパの学会への参加で、技術進歩の社会適応には何かの新しい技術力一つでは成し得ないことを知った。
日本の涙道内視鏡が世界で流通できるためには、良く見える細い内視鏡を作る技術だけでなく、環境への配慮にも気を配った糊材質を生み出す技術が必要なのだ。
高出力エンジンを競って作ればスーパースポーツカーが出来た時代は終わっているのである。今までできなかったことを可能にする技術と、環境への配慮のバランスが取れて初めて新しいものが社会に適応できる時代なのである。至急、内視鏡作製会社のほうでは新しい糊を探す取り組みが始まった。内視鏡に使用できる高温高圧耐性の糊を早く見つけた国が、世界の極細内視鏡を制覇すると思われる。日本の光学製品だけでなく、化学製品にかんする技術力に大いに期待したい。(完)