=佐藤隆介編= 池波正太郎 鬼平料理帳
本書は故・池波正太郎氏の著作ではない。その書生をつとめた佐藤隆介氏によるものである。では池波氏にはなんの関わりも無いのかといえば、そういうわけでもない。 池波氏の語り下ろし「江戸の味」と、「鬼平犯科帳」にて春夏秋冬を通じて描かれる料理の抜粋文に、佐藤氏の解説を併載。鬼平シリーズの副読本たる位置づけにある。
「江戸の味」では鬼平シリーズに限らず池波氏の豊かな薀蓄(うんちく)が切れ味鋭く語られる。
七代続いた江戸ッ子の末裔、弁舌は爽やかで、読むほどに味わい深い。
後半、抜粋された料理は、多くが「鬼平」長谷川平蔵の食卓であり、そのさまは実に質素なものだ。春は独活のぬか漬け、夏には瓜揉み、秋は沙魚の煮つけにけんちん汁。冬には池波氏の好物でもある、葱入りの煎り卵。ほんの数行の描写から、かつての江戸にあった季節の匂い、あたたかい人情が、読者の心へとじんわりと溶け込んでくる。
佐藤氏の解説では、料理のつくりかたが仔細に書かれた項もある。多少手間はかかるものの、数百年もむかしの江戸のあじわいをいまに再現し、なかなか美味しくいただける。
池波文学を味わうに、一風変わったこんな書籍もいかが。(紀伊國屋書店福岡本店 末積加奈子)