第47回 日本循環器病予防学会 日本循環器管理研究協議会総会【会長挨拶・会長講演】

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【会長挨拶】九州大学大学院 医学研究院 保健学部門 樗木 晶子 会長

九州大学大学院 医学研究院 保健学部門 樗木 晶子 会長

この度、第47回日本循環器病予防学会・日本循環器管理研究協議会総会を福岡の地で開催させていただくことになり被災地からもご参加くださりありがとうございます。福岡は久山研究、田主丸研究など疫学研究のメッカでもあり、本協議会の設立当初からかかわってこられた錚々たる先生方が大会を支えてこられました。日本の循環器予防医学の進展とともに歩んできた本学会を当地で開催させていただきますことを大変光栄に思うと共に責任の重さも感じております。

さて、本学会は脳卒中、高血圧、動脈硬化性疾患を中心として生活習慣病の予防に取り組んでまいりました。本学会のように臨床医・疫学研究者、保健師、栄養士、行政分野の方々などが一堂に介する学会は類を見ず、時代を先取りした先見性に目を見張ります。

ようやく循環器臨床医も心疾患は予防が重要であり、予防が可能な疾患も多いとの認識が高まってきておりますが、病気になったあとの治療や疾患の診断などにその興味大部分が向かっていることは否めません。未病というのが本学会の目指すところですが、現実には高齢社会の進展にともなって心疾患は死因の第2位を占めております。

循環器疾患の死として心不全と突然死があると思いますが、2009年第45回総会においては和泉徹会長のもと心不全がテーマとして取り上げられました。今回は不整脈領域で心臓性突然死の実態と予防を一つの核とさせていただきました。

また、私が所属しております保健学科では身近にコメディカルの活躍に接し、これからの医療は多職種の協働なしには成り立たないことを実感し、演者として、様々な分野の方々に参加して戴いております。さらに保健指導レベルアップセミナーやコメディカルを対象とした研究のすすめ方に関する講演を企画し、パワーアップを図りました。

今後、循環器予防を推進するためには他学会との連携も一つの力になると考えます。新たな試みとしまして国民の健康の促進を唱っておられる日本医療学会と日本心不全学会との共催シンポジウムを企画いたしました。さらに心疾患の性差は夙に知られていることでありますが、女性として本学会を開催させて戴くにあたり、教育講演として「女性の心疾患を予防する」というテーマも取り上げさせていただきました。

本学会の成果を市民の皆様に還元すべく市民公開講座も「新老人の会」や「就業の安全と健康を考える会」の協力を得て多くの方の参加を予定しております。

是非とも多くの皆様方にご参集いただき有意義な時間を過ごしていただくと共に水無月の博多を満喫していただけると幸甚です。

最後になりましたが、本学会を成功させるべくお力添えを頂きました皆様に厚くお礼申し上げます。

【会長講演】「突然死をいかに生きるか」

わが国では年間10万人の突然死が発生していると推測されており、その6割が心臓突然死である。その半数が壮年期に起こっており、残された家族だけでなく社会的にも重大な影響を及ぼしている。

突然死とは、症状出現後24時間以内の予期せぬ内因死と定義されている。当然助けるべき突然死とその限界があり、私たちは医療に携わる者として対象となる患者さんや地域の方々にいかにいい死を迎えていただくかということに関して死生観を持っていなければならない。

心臓突然死の疫学・頻度を見てみると、わが国の一般住民の疫学からは約0.05%(人口比)の心臓突然死がみられ、心不全患者では9~22%、心筋梗塞後は10~20%とその割合は高くなっている。

わが国における突然死は欧米と比較すると3分の1程度だが、経時的には減少していない。また、近年増加傾向にある基礎心疾患があると心臓突然死の発生率も高くなることが予想される。発生率で見ると一般住民が一番低い割合なのだが、総数から見るとその数は一番多くなっている。

心臓突然死の発症のデータから、季節変動では冬が一番多く、日内変動では朝夕の二峰性となっている。心臓突然死の原因疾患は調査機関によって若干異なるが、都市部では突然死の中でも心臓突然死が66%を占めており、心臓突然死の内訳は虚血性心疾患が77.5%となっている。

しかし日本全体で見ると虚血性心疾患の割合は約5割だと考えられており、都市部のデータは欧米に近い結果となっている。心臓突然死の基礎心疾患の大半は虚血性心疾患であり、心臓突然死の危険因子と共通である。主に高齢・男性・家族歴・高血圧・糖尿病・肥満・喫煙・左室肥大・心不全・激しい運動や心的ストレス・頻脈が危険因子として挙げられる。

最近は高血圧や糖尿病の方も多い傾向にあり、この度の東日本大震災による精神的ストレスからも心臓病の患者さんに負担があったのではと気遣われる。

心臓突然死の発現に関与する因子は解剖学的基質と電気生理学的異常とこの二つをベースとした修飾因子からなる。解剖学的基質は心筋梗塞での心筋壊死・心筋症による線維化・脂肪変性・伸展・高血圧性心臓病による心肥大といったものであり、様々な電気生理学的な異常が起こるなど二つがタイミングよく自律神経系のアンバランスや、低カリウムに代表される電解質の異常、血圧の変動、新たな虚血というような一時的な修飾因子が加わることによって心室細動や心室頻拍が起き心臓突然死に至る。

また、電気的な異常だけを発生する病気もあり、Brugada症候群やQT延長症候群は一般的なものですが、最近はQT短縮症候群も心臓突然死に関係していることも明らかになっている。これらに関しては遺伝子的な解析が進んでおり、将来的には遺伝子の面から予防につなげていくことが出来るのではないかと考えられる。私たちが取り組むべきものは基礎心疾患をベースとし、タイミングよく3つの条件が重って起こる心臓突然死を防ぐということが一番のテーマとなるだろう。

3つの因子を現在我々が持っているツールの中でどのような手法を用いて検出することが出来るだろうか。構造異常には心エコーやMRI、心機能低下にはNYHA心機能分類、左室駆出率、BNPといった簡便な方法がある。電気生理学的異常のなかで脱分極異常ではQRS幅延長、心室遅延電位(LP)、電気生理学的誘発。再分極異常ではQT延長・dispersion、T wave alternans、T wave valiability。トリガーでは心室性期外収縮、非持続性心室頻拍、心房細動がある。

修飾因子のなかで特に自律神経機能の異常は安静時心拍数、心拍変動、圧受容体反射感受性、heart rate turbulenceから検出でき、電解質異常はK、Caが関わっている。このようなことから我々は心臓突然死の発現に関与する因子をある程度検出でき、これを用いて心臓突然死の予知が出来るかどうかわが国や諸外国でも検討が行われている。心臓電気生理(EPS)検査を行いVT/VF誘発例の無治療群と非誘発例との比較を5年間に検討した結果、誘発群では5年間で33%、非誘発例では25%の突然死がみられた。しかしその差は約7~8%程しか得られなかった。

また、T wave alternansの計測においては陰性群ではほとんど突然死は起こらず、陽性群でも2年間で15%程しか得られなかった。迷走神経活動の有用性を圧受容体と心拍変動の面から比較してみても迷走神経機能が良好であれば突然死は少ないが、悪くても突然死の出現は2年間で10%未満であった。現在心臓突然死の予知指標として様々なものが提唱され有用性が検討されているが、高い確率で突然死を予測できる指標はなく、異なる予知指標を組み合わせて陽性的中率や陰性的中率を上げることを追求している。

しかし陰性的 中率を上げることの方が現実的であり、必要のない患者への過剰な治療をさけ、植え込み型除細動器(ICD)を植え込むことによる弊害や抗不整脈薬投与による副作用に注意しなければならない。

現在私たちが持ち合わせている心臓突然死の予防手段はICDである。これは突然死ハイリスクである心疾患の唯一の予防法だ。現時点では再発予防や発症前の予防として使用されている。

意識がある時に作動するとバットで背中を殴られるように感じる。通常は心室細動が起こってから20~30秒程で作動するため、患者さんは覚えていないことが多い。当初は一度心臓突然死を体験された方の再発予防のために埋め込み始めたが、欧米では突然死の例があまりにも多い為、初発の心臓突然死予防としても使用されている。

抗不整脈薬による心臓突然死の発症予防はアミオダロンという最も有効と考えられる抗不整脈薬でも予防効果はほとんどない。しかしICDは従来の治療に比べると遥かに突然死の発症を予防している。わが国における治療の現状をまとめると、植え込み数は年々増加し2010年までの累計で約37000台が使用されている。適応も拡大されており、心機能低下例での予防的植え込みも増えている。欧米ではICD患者に対する臨床心理士、ソーシャルワーカーを加えた診療・管理が行われ、ピアサポートが確立しているのに対し、わが国ではICD患者におけるQOL、うつ、不安の状況は一部を除いて系統的に調査されていないのが現状である。

よって、ICD治療において必要なことは、わが国におけるICD患者の精神的側面を明らかにすること。精神的側面のサポートシステムを確立し心理的介入により健全な社会生活を可能とすることである。心理的介入によりICD患者の不整脈そのものの発生も抑制し予後の改善を期待する。

179名のICD埋め込み患者を対象に心理状況を調べたところ、うつの程度は13.4%と一般的な心臓病患者さんより若干多いデータとなった。男女間で性差もあり女性のほうがうつや不安が強い傾向にあった。その不安を解消するため男性は飲酒を、女性は喫煙している方が多くみられた。

このようにICDにおける問題としては不安やうつが高くそれがQOLに影響しておりICD植え込みの適応を考慮する際にも配慮すべき重要な要素と考えられた。また、男女間、年齢によってICDに対する許容度が異なりこのような患者背景を考慮した治療が望まれる。QOLや精神的側面に配慮した治療やサポート体制が必要である。

突然死をいかに生きるか、患者にとってはどのように生き延びていくか、医療者にとってはいかに患者を突然死から守るかということになる。限界を知った上でどのような方たちを助けていくのか、というのは永遠のテーマであると考える。医療者がどのように死を考え、患者やその家族が死をどのように受けれいれていくか、答えは患者個々と向き合うことによって得られるのではないだろうか。


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