「がん治療におけるハイパーサーミアの展望」九州大学名誉教授 おんが中間医師会遠賀病院 杉町 圭蔵 統括院長
ハイパーサーミア温熱療法の歴史と後の展望
ハイパーサーミア療法は長い歴史を持ち、その起源は5千年前の古代エジプト時代にまでさかのぼる。しかしながら近代医学、そして日本国内においては臨床応用に勢いがつくかと思えば一進一退という状態を繰り返してきた。
はじめに、わが国におけるハイパーサーミアの歩みを簡単に振り返っておきたい。日本での研究は1975年、阿部光幸、菅原努両先生が端緒である。79年には4億4千万円の研究費が投じられ、山本ビニターによって局所加温装置器の1号機が完成した(写真は最新機種)
次にハイパーサーミアの利点について述べたい。ハイパーサーミアによって免疫力や血流が増強し、体温の上昇、発汗作用、エンドルフィンの分泌等が体内で促される。その結果、薬剤の取り込みが容易になり運動能力や代謝もが向上し、痛みも緩和されるなどの効果もみられる。その利点は
- 副作用が少ないこと
- 安全性が高いこと
- 繰り返すことが可能であること(週2~3回の治療が可能)
- 進行がん、再発がんに応用可能であること
- 費用が比較的安価であること
である。さらに大きな特長として、放射線・化学療法との併用が可能で、なおかつその効果を増強する働きをすることが挙げられる。
ハイパーサーミアの利点を述べたが、残念なことにその効果を科学的に立証することは非常に困難である。次にデータを示しながら科学的立証の重要性について考察してみたい。
ハイパーサーミアによってHeat Shock Protein(HSP)が増強するといわれている。HSPは細胞の中のタンパク質を補修する働きがあるため放射線療法で正常な細胞が受けるダメージを軽減するのに有効だがこれを立証するのが大変難しいのが現状だ。
放射線・化学療法とハイパーサーミアを併用した症例と併用しなかった症例(CR34例とHCR32例)を比較すると、確かに差は出てくるが、症例数が少なくエビデンスとして評価されるまでには至っていない。
ハイパーサーミアはそれ単独での抗腫瘍効果は充分とはいえない。しかし、放射線・化学療法と併用することで大きな力を発揮する。
ハイパーサーミアのさらなる発展のためには、その効果を科学的に立証することが不可欠である。
しかし、温熱療法が適用される症例は進行がんや再発がんであることが多いため2群(温熱療法ありとなし)に分けて治験することに対して患者さんのご理解を得ることは難しいだろう。
単独の病院(施設)では十分な数の症例を集めることができない。そこで日本ハイパーサーミア腫瘍学会が中心となって、温熱療法を実践している複数の病院のご協力を得て、腫瘍部位別にグループを作り、より多くの臨床データを収集して科学的立証を得る努力をしていただきたい。
科学的に立証されれば、おのずと温熱療法は世の中に広く認知されるようになり、さらなる進化を遂げることが可能になるであろう。