9月はがん征圧月間 “現況と課題を聞く”

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「がん対策基本法」が平成19年4月に施行され、約2年半が経過しようとしている。9月のがん征圧月間に合わせ、国立病院機構九州がんセンター岡村健院長にがん医療や患者を取り巻く現状と課題、がん対策基本法が掲げる均てん化など多岐にわたって話を聞いた。また、原信之日本対がん協会福岡県支部長からは、読者に向けてメッセージが寄せられた。あわせて紹介する。

インタビュー - 九州がんセンター 岡村 健 病院長 -

―― はじめにがん医療と患者を取り巻く現状と課題についてお聞かせください。

九州がんセンター岡村健病院長

現在の大まかな状況を申し上げると、日本人の3人に1人が、がんで亡くなっています。男性で2人に1人、女性で3人に1人の割合です。また、2人に1人の割合でなんらかのがんに罹患しています。がんの死亡者数は増加傾向にあり、昭和56年以降、他の疾患(脳血管疾患など)を抜いて死亡原因トップの状態が続いています。

ただ、がんの死亡率は、95年頃をピークに減少傾向にあります。特に、75歳未満では全体的に減ってきています。一方、年齢調整罹患率を見てみると、増加しています。つまり、がんで直接死に至ることは減ってきているものの、がんにかかる人は増えてきているという状況です。要するに、がんにかかっても、2人に1人は治療によって治る時代になったということです。その率も年々上昇しています。

細かく見てみると、種類によっては、死亡率が上昇しているがんもあります。特に、男性の場合ではすい臓がん、女性もすい臓がんと大腸がんの死亡率が上がっています。胃がんは減少傾向にありますが、大腸がんと乳がんの罹患率は増加しています。以前は、胃がんが男性の死亡率のトップでしたが、今は肺がんです。女性は、大腸がんがトップです。

この原因、つまりがんのリスクファクターですが、食事(塩分摂取)・喫煙(受動喫煙を含む)・肥満です。バランスのとれた食事、禁煙、運動による体重管理が、予防に有効であるということです。肺がんについては、なんといっても受動喫煙を含む喫煙です。喫煙が問題なのは非喫煙者に肺がんのリスク(受動喫煙の害)を与えていることで、特に女性の場合は、ニコチンへの感受性が高いことから男性の数倍高いといわれています。またごく最近、乳がん細胞にニコチン受容体のあることが発見され、ニコチンと乳がんの発生、増殖に直接関係していることが報告されました(JNCI誌)。タバコは肺がんのみならず、乳がんや他のがんについても「百害あって一利なし」といえます。

地域特性をみてみると、九州はC型肝炎の影響もあってか、肝がんが多くみられます。また、西日本地域全般にいえることですが、成人T細胞性白血病(ATL)などの白血病が依然多い状況です。

がんでは「5年生存率」を治癒のひとつの目安としますが、30数年前はこれが20~30%台でした。現在は54~55%まで上昇しましたが、ここ数年は頭打ちです。これが伸びれば、がんで死亡することがほとんどなくなるということになるのですが、なかなか上昇に転じません。5年生存率を高めるためには「予防」と「早期発見」が不可欠です。もちろん、がんにならないのが理想ですから、先ほど申し上げたような予防が大切です。また、がんになっても早期発見であれば、90%治すことが可能ですから、定期的な検診や早目の受診が大切です。

がん年齢調整死亡・罹患率の年次推移(75歳未満・性別)〔総数1958~2008年〕

がん年齢調整死亡・罹患率の年次推移(75歳未満・性別)〔総数1958~2008年〕資料:国立がんセンターがん対策研究センター

資料:国立がんセンターがん対策研究センター

子宮頸がんに限ってですが、ヒトパピローマウイルスワクチンでの予防が可能です。予防できるがんというのは、そうはありません。しかし、高額ですから公費で助成すべきでしょう。将来的な医療費の抑制という観点からも予防は有益だと思います。国には、長期的な視野に立って施策してほしいものです。がんにかかれば、抗がん剤を用いて治療することが多いのですが、抗がん剤で確実に治るという段階には至っていませんし、薬剤は非常に高額です。費用対効果の側面からもワクチン接種は効率的です。

当センターでは、年間何十億という額の抗がん剤を使用しています。臨床新薬が次々に開発されていますが、金額もどんどん上昇しています。抗がん剤が高額であるという問題は、がんセンターやがん専門病院にとって、悩みの種です。患者さんが金銭的問題で抗がん剤治療をためらうようなことがあってほしくはないのですが、お金と命の問題であるだけに難しい問題です。医師は、当然のことながら高額であっても効果の見込める抗がん剤を勧めます。患者さんにお金のことは言いにくい面もあり、悩ましい問題です。抗がん剤が高額であることは、患者だけでなく医師にとっても決して良いことではありません。

―― 続いて、九州がんセンターで進めている取り組みや、病院長のお立場から経営環境や今後の方針についてお聞かせください。また、周辺の医療機関との"病診連携"の具体例も併せてご紹介下さい。

当センターの目標は、シンプルですが、安全で良質ながん医療の提供、臨床研究の推進、情報の収集と発信です。その一方で経営も大事です。今年はDPC(診断群分類包括評価)を導入しました。

次に地域での連携についてですが、がん対策基本推進計画に個別目標として盛り込まれている「地域連携クリティカルパス」の整備です。

具体的には、診療計画書(工程表)を地域の先生方と共同で作成し、運用します。胃がんについては、この8月から福岡市を中心に地域連携クリティカルパスの運用を開始しました。

患者さんは「私のカルテ」をもとに受診し、がんセンター(拠点病院)と地域の医療機関(かかりつけ医)は、各々の治療計画に沿って治療します。治療経過や状態を共有することで、より迅速かつ適切な診療を可能にします。

今後、早期がんが増加することが予想されますが、治療した全ての患者さんをその後も自分の病院だけで診ていくことは、困難です。そこで、地域連携が重要なポイントになってきます。各医療機関が役割分担し、地域全体でがん患者を支える仕組みを作るのが狙いです。

また、福岡では「緩和ケアネットワーク」を通じて既に連携が進んでいます。今後、この分野では専門病院との役割分担が進むことが予測されます。

―― がん対策基本法が施行され、2年半になります。我が国の対がん戦略について現状をどのように捉えておられますか。

ご存知の通り、2007(平成19)年、国は「がん対策基本法」を施行し「がん対策推進基本計画」を策定。福岡県も、その計画に基づき「福岡県がん対策推進計画」を策定しました。この計画のひとつの柱は「がん診療連携拠点病院」に全国の377施設を指定したことです。

福岡県は九州がんセンターと九州大学病院の2施設が中心となって、がん診療に取り組んでいます。それ以前から当センターは「がんセンター」ですから、基幹施設としてがん診療を続けてきました。国も30年ほど前から1~3次の「がん対策10ヵ年計画」に基づいて取り組み、九州では当センターがその中心的役割を担ってきました。ただ、同法施行までは大々的な取り組みができなかったのが実情です。同法施行後は、重点目標が掲げられ、それに対して予算措置が取られるようになりました。法律ができた意義は非常に大きいと思います。

しかしながら、平成21年度予算で約524億円の予算が計上されているものの、米国と比較(GDP換算で4分の1)すると、依然少ないといわざるを得ません。わが国の医療現場では、人員が絶対的に不足しています。欧米では、医師や看護師だけでなく研究スタッフや、コメディカルの人員も充実しています。日本の現有勢力では、基本計画が掲げている目標を達成することは大変難しい状況です。

同法は「理念法」と言われ、高い理想を掲げていますが、そこに大きな問題点を抱えています。がん医療の「均てん化」です。均てん化とは、施設間、地域間の格差をなくし、日本全国どこでも質の高いがん医療が受けられることを指しますが、実現は容易ではありません。均てん化を分かりやすく例えると、学校のクラスで生徒が百点満点の50点平均ではなく、全員が満点、ないしはそれに近い点数を取らなければならないということです。

また、均てん化の評価方法、指標(QI)も確立されていません。

同法では「がん対策推進協議会」の委員に「がん患者及びその家族又は遺族を代表する者」を任命することを明記(第20条2項)しています。これは画期的なことです。患者さん自身の声は、医療者側とは齟齬がありますが、相互理解を深め、国の対がん政策に両者の意見を反映させていくことでがん医療は良い方向に向かっていくと信じています。

―― 最後に、医師、医療従事者、そして患者さんへのメッセージ、提言をお願いします。

夏目漱石の『草枕』の冒頭に

「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくにこの世は住みがたい」

とありますが、医者と患者さんの関係はこの「智」「情」「意」のバランスが大切です。

医師は知識や理論(智)に偏りがちで、一方の患者さんはがん告知に衝撃を受けて感情(情)に流されます。

両者が自らの思いを通そうとすればギクシャクして相互の信頼関係は築けません。よって、医師はもっと患者の気持ちに寄り添う努力をし、患者さんは自身の病気について正しい知識を得る努力をすべきです。双方が努力することで両者の「智」と「情」のバランスが取れ「意」が通じ、対等の信頼関係を築けるのです。患者さんが正しい知識を得るために必要な情報を提供すること(IC)も医師の重要な役割のひとつです。

若い医師の患者さんとのやり取りを聞いていると、専門用語が頻出し「本当に患者さんは理解できているのだろうか」と危惧することがあります。医師は、患者さんの気持ちに沿い、リード(患者さんを教育)する心構えを持ってほしいと思います。


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