第64回日本食道学会学術集会 - 会長講演 -

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「食道癌取扱い規約を通読して」久留米大学医学部 藤田 博正 教授

久留米大学医学部 藤田 博正 教授

はじめに

私の食道癌研究の第一歩は、教室に保存された病理標本を鏡検し、食道癌取扱い規約第5版に従って記載することから始まった。その約30年後、第6代食道癌取扱い規約委員会の委員長に就任し、2007年の第10版の出版に携わった。今回、第1版から第10版(写真)まで通読する機会があったので、私見を報告する。

『食道癌取扱い規約』の誕生

1965年8月、桂重次、中山恒明、赤倉一郎、佐藤博諸先生を中心に日本食道疾患研究会が発足し、10月には第1回の学術集会が徳島で開催された。その折、規約編集委員会が企画され、翌年4月に規約委員会が発足した。ちなみに、65年当時の委員会メンバーは佐藤博、秋山洋、掛川暉夫、中村嘉三、羽生富士夫、鍋谷欣市の諸先生である。69年に規約第1版が同研究会から発行され、会員に配布された。72年、金原出版から刊行された第2版ではX線、内視鏡、肉眼、病理の写真が掲載され、今日の規約とほぼ同じ体裁が整えられた。なお62年、食道疾患研究会に先んじて胃癌研究会が発足し、同年『胃癌取扱い規約第1版』が発行され、68年の時点で第6版まで版を重ねていた。

規約改訂の歴史

規約は時代、すなわち当時の規約委員会や委員長の考え方(パラダイム)を反映している。初代佐藤博委員長は66~91年まで25年間にわたって委員長を務め、その間第1~7版までの出版に携わった。第2代掛川暉夫委員長(91~92年)は第8版、第3代磯野可一委員長(92~95年)と第4代渡辺寛委員長(95~99年)は第9版、第5代内田雄三委員長(99~02年)と第6代の藤田(03~09年)が第10版の出版に携わった。

(表)食道癌取扱い規約の歴史的背景

(表)食道癌取扱い規約の歴史的背景

委員長が交代すると、当時の食道癌の診断や治療の進歩を受けて、規約の内容が大きく変化した。そこで、佐藤委員長の時期を「安全性に配慮しつつ適応を拡大した時代(第1期)」、掛川・磯野・渡辺委員長の時期を「根治性を追及した時代(第2期)」、内田・藤田委員長の時期を「QOLや機能温存を重視した時代(第3期)」と分類した(表参照)。

第1期は、食道癌切除術が全国的に広まり、安全性に配慮しつつ手術適応が拡大された。この時代は術前照射が治療の主流であった。佐藤委員長が主導した第1版から第7版では、病理分類、X線・内視鏡・切除標本の写真、欧文述語、リンパ節図譜、化学療法・放射線療法の効果判定基準などが新たに加えられ、規約のブラッシュアップが図られた。

第2期は、内視鏡の発達とともに診断学が進歩し、切除先行プラス術後化学療法が主流となった。根治性を追及する拡大手術、とりわけ三領域(頸部・胸部・腹部)リンパ節郭清手術が導入された。掛川委員長に加え白壁彦夫先生も関わった第8版(92年)では、臨床分野で内視鏡型分類、X線型分類、病理部門で肉眼型分類と組織学的分類が全面的に改訂された。これにより肉眼型分類が病型分類の基本という原則が確立された。第9版(01年)は磯野・渡辺委員長によって改訂された。リンパ節郭清方法の変更によるリンパ節転移の実態を反映させ、リンパ節の群分類、stage分類が改正された。また、TNM分類(97年版)との整合性を持たせるため、壁深達度を「A」から「T」へ、「R」を「切除度」から「癌遺残度」に変更した。そして、特筆すべきは初めて英語版が刊行されたことである。これにより、食道癌取扱い規約とくにリンパ節分類が世界に発信された。

第3期は、内視鏡的治療、鏡視下手術、根治的化学放射線療法が導入される一方で、医療訴訟が増加。杉町圭蔵、桑野博行両先生が携わった「癌診療ガイドライン」の作成も相まって、QOLを重視し、機能温存や侵襲軽減が治療の重要なテーマとなった。内田、藤田委員長による第10版では、非手術例にも規約を適用できるよう臨床所見、手術所見、病理所見、総合所見の記載法を規定した。懸案であった食道胃接合部の診断法とともに食道胃接合領域を定義し、食道胃接合部癌のリンパ節群分類を改定した。また、バレット粘膜、バレット食道、バレット食道癌も定義し、その取扱い方法を規定した。

食道癌取扱い規約の課題と将来

食道癌取扱い規約は一貫して深達度(T)、リンパ節転移(N)、臓器転移(M)によるanatomical stagingの立場をとってきた。一方、進行度分類はprognostic stagingの役割も果たしている。TNM分類第7版に掲載されたAJCC分類では、予後予測の指標として癌占居部位や組織型も進行度カテゴリーに加えられた。規約もprognostic stagingを重視し、TNM以外のカテゴリーを採用するかどうか注目される。

また、リンパ節転移の程度(Nカテゴリー)については、規約では群分類を採用しているが、TNM分類第7版や胃癌取扱い規約第14版では個数分類を採用している。大腸癌取扱い規約第7版は、群分類と個数分類を併用している。他の消化器癌取扱い規約との整合性から、次回の改訂ではNカテゴリーの分類法が大きなテーマになるだろう。

食道癌取扱い規約第1~10版(第2~10版は金原出版より刊行)

食道癌取扱い規約第1~10版(第2~10版は金原出版より刊行)

今後、規約と診療ガイドラインの役割分担も議論されることになるだろう。既に、胃癌取扱い規約第14版、大腸癌取扱い規約第7版では、ガイドライン的内容は削除され、定義や分類だけを掲載する簡略化の傾向にある。

日本食道疾患研究会では各委員会が設置され、これまでの規約改訂において、その成果が反映されてきた。日本食道学会でも研究委員会を充実させ、その成果を機関紙『Esophagus』に掲載して、世界に発信することが重要である。

最後に、癌取扱い規約やTNM分類は存外保全されていないことが今回判明した。出版元の金原出版にも全ての版が揃っている訳ではない。全国の図書館や掛川先生が所蔵されていた版をお借りしたりして、ようやく第1~10版を通読できた。古い規約は捨てられる運命にある。日本食道疾患研究会時代の各委員会の報告等も含め系統的に資料を収集、保全することを提案したい。


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